時には寝子島の外で｜リアクション

時には寝子島の外で

○東北の実家

「じいちゃんただいま～」
　今年寝子高に入学した紗雪幽は、久しぶりに実家の寺に帰ってきました。
　しかし、声をかけても返事がありません。
「……ってあれ？　出掛けてるのかぁ」
　上がりこんで荷物を下ろしていると。
　ピンポーン。

「ん？　チャイム？　お客さん？　はーい」
　玄関に出てみると、大きな包みを持っった中年の女性が立っていました。
「あの、これを預かってください」
「え？」
「日本人形です。夜になると動き出して……困ってるんです」
「いや待って下さい今じいちゃんいなくて……っ」
　戸惑う幽ですが、女性は聞いている様子はありません。
「すみません、よろしくお願いします！」
　言うが早いか女性は包みを置いて、出ていってしまいました。
「行っちゃった……どうしよ。これ」
　幽自身は特に除霊能力があるわけではありませんが、よくいわく付きの人形等を持ち込まれる寺なので、驚きはしません。
「まーとりあえず清めの塩ふって御札貼って置いとけば……」
　見よう見まね、門前の小僧と言うやつです。
「あれ？　いつもの場所に無いな……台所の塩でいいか」
　清めの塩は海水を自然乾燥させたものですが、幽は台所にあった食卓塩で代用することにしました。
　包みと箱を開けると、古めかしい日本人形が出てきました。
　古ぼけた朱色の着物をまとったその人形に、幽はサッサッと塩を振ります。
　あとはじいちゃんがなんとかしてくれるだろうし、と御札も適当にペタペタ貼り、本堂に置きました。
「こんなんでいいか。ん、電話か」
　携帯の着信音に出てみると。
「おー！　久しぶりじゃん！　今帰ってきたとこ」
　中学校の友達からの電話でした。
「焼肉！？　行く行くー！」
　嬉しい誘いに、早速幽は飛び出していきました。
　人形のことなどすっかり忘れて。
　
　久しぶりに来た焼肉屋。
　肉を焼くジューシィな音と煙の中、幽は友達と盛り上っていました。
「カルビ美味い！」
「幽、変わんねなー、元気そうだな。あっちの高校はどうだ？」
「みんなも元気そうで何よりだよ。そうそう、そんで今通ってる学校がめちゃくちゃ面白くてさー！　新歓祭とか部活デーとか……」　
　そこで幽の携帯が鳴りました。
「あ、電話だ。ちょっと待って」
　席をはずし、電話に出ると、相手はじいちゃんでした。
「もしもし？　じいちゃん？　どこ行ってたんだよーじいちゃんいない間にまたいわく付きの人形預けられてさー」
『人形？』
「適当に本堂に置いといたから……」
『何？　本堂にはそんなもんねえぞ』
「……え？　そんなはずは？」
　幽はふと何かを感じて窓のほうを見ました。
　……誰かが外からこっちを見ていました。
　すっかり暗くなった窓の外で、着物姿の女性のその肌は明らかに人のものではなく。
　幽の視線に気づいたか、すっと身を隠しました。
　一瞬見えた着物の色は……さっきの人形の着物と同じ朱色をしていました。
『……おい、どうした？』
　一瞬絶句した幽は、じいちゃんの声で我に返りました。
「……ああ、こっち来ちゃったかも。友達と夕食食ってるから帰ったらよろしく。んじゃ後で」
　何事もなかったように幽は友達のところに戻り、焼肉を楽しんだのでした。

　寺に帰るとじいちゃんが顔を出しました。
「お帰り。おまえの言ってた人形ってこれか？」
　その人形からは、かすかに焼肉の香りが漂っているようでした。
　　

このページにイラストを設定する