プール掃除はどきどきがいっぱい？｜リアクション

プール掃除はどきどきがいっぱい？

「汚れは落ちたと思うんだけど……ぬるぬるが落ちないな」
「そうなんですよね。先ほどから転ぶ方もいらっしゃるようですし、心配です」
　有留が不思議そうに首をかしげ、時子も遠くから見た解理たちや真白たちの騒動を見ていたので警戒していた。
「一応着替えを持ってきていたので濡れる分には平気なのですが……、巻き込まれたらリボンが取れてしまいそうですね」
　三つ編みに結ったリボンを揺らし、少し困った顔になる時子。有留はぽりぽりと頭をかきながら「巻き込まれたくないな……」と小さな声で呟けば都も同感らしくうんうん、と頷く。
「ま、羽目外し過ぎてる子がいたらとりあえず克を入れようと思ってるから。うちはあっちの方、してくるわ～」
　都は時子と有留に手を振ってプールの底を蹴り、再びデッキブラッシにのって滑っていこうとした。と、その時、思いっきりずるっ、と前にすっころんだ！
「うわあっ！？」
　しゃあああああ、と派手な音を立てて滑っていく都。あまりの出来事に時子と有留も開いた口がふさがらない。
「だ、大丈夫ですか？！」
　時子が有留と助け起こそうとすると、手がローションに濡れていたのか掴めずしりもちをついてしまった！
「はうっ！？」
「見事に濡れちゃったね……」
　有留の手を借りて起きる都と時子だが、この時彼らが思ったのは「皆体操服や水着で透けなくて良かった」という事だった。

（ふぅ、危ない目にあったの～。それにしても恥ずかしかったわぁ。水着ずれてたらもっとハズい事になってたわぁ～）
　気を取り直して『電動立ち乗り二輪車』っぽくデッキブラッシで滑る都。彼女曰くこうする事で掃除が捗らないかな、と考えたらしい。ちなみに、羽織っていたパーカーはローションまみれになってしまったので、脱いでプールサイドに置かせてもらっている。
（そんじゃこんどはこっちの方を重点的に掃除しようかなぁ……ん？）
　都が有留と時子が居た場所の反対側にくると、先客が居た。寝子高のジャージ姿で参加していた北里雅樹である。だが、彼はプールサイドに腰掛けてサボっていた（本人曰く休憩）。クラスメイトの体たらくに都がむすっ、とした顔になる。
「こらっ！　少しは真面目に働け！　後輩に示しがつかないぞ！」
「と言ってもさ黒兎。俺、肉体労働ってあんまり得意じゃないんだよ」
　バテた、とデッキブラッシの柄に腕を乗せため息を吐く雅樹。やる気のなさそうな顔で、内心では「あちこちでドキドキなハプニングあってるっぽいし～」とか何か考えている、のかもしれない。
　都は「あのねぇ……」と注意しようとしたが、思わず口をつぐんだ。彼の後ろに椎井莉鳥がいたのだ。しかも、物凄く厳しい表情である。
「ん？　どうした？」
　それに気づかない雅樹が首をかしげ、莉鳥はぽん、と彼の肩に手を置いた。

「……仕事サボって何してるの？」

「し、椎井！？」
　いきなり声をかけられてしどろもどろになる雅樹。都は嫌な予感を覚えたのか「じゃあ、うちはこれで～」とそそくさと退散する。
　ぎこちない動きで振り返る雅樹へと、莉鳥は氷点下の眼差しを向けていた。手にデッキブラッシを持ち、首にはタオルをかけた莉鳥。彼女は競泳水着の上に陸上部で着ている黄緑色のTシャツを着ていた。すらりと伸びた足が健康的な色気を醸し出しているものの、それを堪能する精神的余裕は今の雅樹にはない。
「それはそれでアリだな」
「なにバカな事言ってるの。本当に後輩へ示しがつかないわよ。さっさと掃除に戻って」
　ごまかすためにそんな事をいう雅樹に対し、言い訳なんて聞いても無駄とばかりに注意する莉鳥は軽く背中を叩き、プールへと慎重に降りる。そしてデッキブラッシで汚れを一生懸命こすり始めた。
「……あー……はいはい、やりますよ」
　雅樹はぽりぽり頭をかき、同じようにプールへ降りて掃除を再開するのであった。
　そんな二人に災難がふりかかろうとは、まだ誰も予想できていなかった。

（あぁ、どうしてこんなにぬるぬるするんですか！）
　デッキブラッシで一生懸命掃除をする塔ヶ崎璃亜。だが、足元がぬるぬるしていてなかなか力が入らない。
（水着を忘れたのは本当に痛手です……）
　璃亜は深いため息を吐いてしまう。が、そこで思いっきり前のめりに滑ってしまう！
「きゃあっ？！」
　かわいらしい悲鳴を上げ、前のめりに転んでしまう。見事までにシャツが透け、下着が見えていた。
「うう、転んだ所為で制服がびちゃびちゃです……」
　打ったところをさすりながら立ち上がる璃亜。滑らないように気をつけながら立ち上がろうとするが、もう少しの所でずるっ、とこけてしまう。

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