存在感奪還大作戦！？｜リアクション

存在感奪還大作戦！？

　同日の朝。きらっきらの黒崎俊介先生の姿に、初瀬川理緒は首を傾げていた。
「今日の黒柳先生、妙に存在感あるなー」
　え？　黒柳先生？
　そう、何を隠そう、理緒は黒崎先生の名前をまともに覚えていないのだ！
　そういう生徒も相当数いるのでは……という黒崎先生なのに、重ねてになるが今日はきらっきら。
　男子ですら、「今日も黒崎先生カッコイイな！」なんて囁き合っている始末なので、
「何よ、現役女子高生グラビアアイドルが目の前にいるのに、黒嶋先生の方がいいってわけ？」
　と、理緒からしてみれば、これが結構面白くない。
　テオの声が頭に響いたのは、丁度その瞬間だった。
「……え？　マジで？」
　一方的に言い切るなり既にテオの反応は途絶えているのに、思わず問い返してしまう。
　返る言葉はないが、代わりのように、がんがんと頭が痛んだ。
「テオの声が聞こえたって時点で嫌な予感はしたけど……斜め上すぎる展開だわ……」
　《存在感》が黒河内先生……もとい、黒崎先生に収束している、ということは、
「それって要するに……あたしの《存在感》まで黒田先生に取られてるってこと！？」
　叫んだ声に応じる者はなく、どころか、突然の大声に振り返る者すらいない。
　冗談じゃない！　と、理緒はぎゅうと拳を握った。
「こっちは存在感が全てな現役女子高生グラビアアイドルなのよ！？」
　――それがこんな形で《存在感》を失って、しかも自分も消滅とかありえない！
　ならば、受けて立って（？）やろうではないかと理緒は瞳をぎらと光らせる。
（とりあえず目立つことをすればいいのよね？　思いつく限りのことをやってやろうじゃないの！）
　自分には目もくれない通行人達を押し退けるようにしながら、理緒は桜花寮の自室へ戻った。
　まず用意したのは、バズーカのようなウォーターガンだ。
　タンク容量は１２００ｃｃ。
　大容量と言って差し支えのないそのタンクに、理緒はカラーインクをセットする。
「こっちはこれでよし、と。あとは……」
　制服を脱ぎ捨てて、グラビアの撮影の際に貰った水着達を部屋に広げる理緒。
　その中から選んだのは、純白の三角ビキニだ。
　それを身に纏って、素肌に弾帯を巻き付ける。
　取り付ける予備のタンク達の中のカラーインクは、カラフルに、色の種類を充実させた。
　最後に、制服一式をバッグに詰めれば、準備完了だ。
「さあ、ド派手に暴れてやるわよ！」
　学校に戻る頃には、とっくに授業が始まっていた。
　手始めにと１年生の教室へと向かい、乱暴に扉を開ける。
　それだけでは、《存在感》を失っているが故に注目を集めることはなかったが、
「アッハハハハ！　パーティーの始まりだー！」
　調子外れの笑い声を高らかに響かせてウォーターガンからインクを乱れ撃てば、
「きゃあっ！？」
「な、何だ！？」
　と、教室の中は大混乱。インクまみれになりながら、教室中を生徒達が逃げ惑う！
「ヒャッハー！！　一度こういうことしてみたかったんだ！」
　ポニーテールを振り乱しつつ、カラーインクを乱射、乱射、乱射！
「染まれ染まれ！　もっとカラフルに染まれ！」
　教室いっぱいに色が溢れる。
　赤、青、黄、緑、紫、ド派手なピンク……等々。
　どこかアートめいた様相と数多の悲鳴を残して、理緒は教室を後にした。
「あっ、逃げるぞ！」
　と、確かに自分の存在を認識した声だけが、背中を追い掛けてくるのを感じながら。
（《存在感》、戻ってきたみたいね。あー、楽しかった！）
　本格的に追跡が始まらないうちに、すぐさま適当な空き教室へと逃げ込む。
　そうして制服姿に戻った理緒は、しれっとした顔をして非日常の世界を脱するのだった。

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