イースター・イースター｜リアクション

イースター・イースター

　イースターは宗教的な意味合いの強い行事であるせいか、日本ではどこか異国情緒の強いものとして受け取られることもある。遠野まほろは、チラシを受け取ってまず、海外のお祭りだなぁとのんびり思っていた。次に目が行ったのは、カラフルな卵とうさぎだ。パステルカラーで彩られた店内は柔らかく暖かみを感じる。今日はこの店で過ごしてみよう――そう考えた。

「いらっしゃいませ、お客様。只今イースターフェア開催中です」

　まほろに気付いたアケーチが、笑顔で語りかける。

「今だけの素敵なお食事と雰囲気をお楽しみください……！」

　その異様に整った容貌と立ち居振る舞いに、なにか寝子島の人々とは異なったなにかをぼんやりと感じ取りながらも、まほろは特に指摘することもなく今月のおすすめを見た。右から左へ流れる、アケーチがすらすらとメニューを紹介する声も参考にしながら、どれにしようか悩む。ラテアートも請け負っていると聞いて、まずはそれを頼むことにした。
　それと、ちょっと贅沢をしてケーキを二つ。うさぎのカップケーキとキャロットケーキだ。どういったものが出てくるか楽しみにしながら、まほろは店の雰囲気に癒される。
　――ねこさんも好きだけどうさぎさんもやっぱり好きだな。
　装飾にふんだんに用いられたたまごとうさぎがいっぱいの光景を見て、幸せだなぁ、としみじみ感じながら、趣味のぬいぐるみ作りについて考えた。
　――今度イースターをイメージしたうさぎさんを作ってみようかなぁ。
　なんて。

「卯木さん、このケーキをあちらのお客様に」
「はーい！」

　慌ただしそうな厨房から出されたケーキを慎重にトレイに乗せ、衛は落とさないよう慎重に、しかし出来るだけ早く歩いた。待っているまほろの席まで落とさなかったことにほっとしつつ、衛は笑顔を浮かべて口を開く。

「お待たせしました！　キャロットケーキです！」

　ご注文の商品はお揃いでしょうか？　という問いにまほろがこくりと頷いたのを見て、衛は勢いよく頭を下げる。

「ごゆっくりお召し上がりください！！」

　そんな衛の様子に元気をもらったような気持ちになりながら、まほろは届いた料理と飲み物を眺めた。注文時におまかせしたラテアートはうさぎになってまほろの前に現れた。しかしうさぎはうさぎだが、泡立てられたミルクがもこもこと山を作り、立体的なものになっている。うさぎはカップのふちに小さな手を置いて、つぶらな瞳でまほろを見ていた。カップケーキはくるくると巻かれたクリームの上に、円と楕円のチョコレートがうさぎの耳と目のように乗せられている。そして、先ほど衛によって届けられたキャロットケーキは、クリームの上にオレンジ色の粉糖が、うさぎの絵になるように塗されていた。

「……いただきます」

　食す。おいしい。まほろがまず感じたことはこの一言だった。カップケーキは正統派で、キャロットケーキはほんのりと香るシナモンとしっとりとした食感、柔らかい甘みがまほろを楽しませる。イースターの雰囲気に浸りながら、まほろは快い時間を過ごした。