イースター・イースター｜リアクション

イースター・イースター

　待っている瀬莉のテーブルにそれが届くまで、そう時間はかからなかった。野イチゴの描かれたケーキ皿に乗っている、一匹のうさぎとエッグタルト。

「ほんとにかわいい……！」

　静かに置かれたそれを瀬莉はくるくると一周分動かしては、その出来に驚いた。メニューにある写真通りの、いやそれ以上にかわいらしい、ぬいぐるみかなにかのような、外見を心行くまで楽しんだ瀬莉は、ようやくフォークを手に取ってうさぎの小さな身体を崩しにかかる。クリームで出来た白い身体は脆く、切り取られた一部はすぐ瀬莉の口の中へ。ただただ甘いのではなく、ほろりと口の中で溶けるような上品な味だった。エッグタルトも瀬莉を満足させるに足るもので、味わい尽くすころにはもう最後の一口。どこか名残惜しく思えるそれを、瀬莉は口に入れた。

　最後に残っていたコーヒーを飲んで、瀬莉はにっこり笑顔でこう言う。

「おいしかった。ごちそうさまでした！」

　シャッター音が二つ分鳴る。記念の撮影も終わった後、ふたつのイースターエッグを見て、修はファベルジェの卵――インペリアル・イースター・エッグともいわれる、ある宝石商が制作した、絢爛豪華という言葉が相応しいイースターエッグを想起していた。もっとも、《Délicieux!》のイースターエッグはそれほど煌びやかなわけでも、人々を驚かせるような面白い仕掛けが仕込まれているわけではない。しかしながら、修は語らずにはいられなかった。丁度話題も途切れたところで、切り出す。

「もっともっとキラキラした卵があるのですね」
「あれは、映像ではなく実際に見るべきだよ」

　美咲紀は卵に描かれた模様に感心しながら、修の話を聞いていた。立て板に水ともいうべきか、すらすらと昔見た工芸品について語る修の顔にはどこか熱が入っているようだ。

「精緻の極みだ。今でも欧州各地の美術館で見ることができる。何なら今度行ってみよう」
「ヨーロッパですか！いいですね」

　修の言葉に、美咲紀は笑顔で頷いた。

「――あ、ここのは食べられるから、美味しく頂こう」

　ひとしきり語って満足した修は、さっそくその美しい絵柄をスプーンで割りつつ、中身を味わう。美咲紀もそれに倣って、食べ進めた。

「楽しかったな」

　ぱしゃり、ぱしゃり。料理が届くたびに写真が残っていく。とくに修によってオムライスに描かれたケチャップアートは、しっかりと残された。美咲紀のニャンスタにアップするのだという。修は、形に残らなかったあの思い出について語るべく口を開いた。公園で子供時代の自分たちのような子供と遊んだ記憶だ。

「です。二人とも子供らしくよく動いて――」
「え、子供は三人だったろ。一番はしゃいでいたじゃないか」

　オムライスに舌鼓を打っている美咲紀はその時のことを思い出しうっと唸った。はしゃいでいたのは否定できない。

「でも、立ち漕ぎには驚いたよ」
「ブランコは立ち漕ぎが基本ですよぅ」

　童心にかえったあの日の記憶を語る二人には笑みが浮かんでいた。

「だって遊びたかったのです」

　むーいむーい。不思議な鳴き声を出しながら美咲紀はかわいくむくれる。丁度その時、三匹のうさぎ……のようなケーキが運ばれてきた。写真を撮り終えれば、さっそく口に含む。

「はぅ、しあわせ」
「うん。美味い。甘さも控えめですっきり軽いな」

　短いけれど、確かに幸福な時間。そんな時間を、二人はしっかりと味わい尽くした。