今夜、寝子ヶ浜海岸で。～猫の目シーグラス～｜リアクション

今夜、寝子ヶ浜海岸で。～猫の目シーグラス～

　綾辻綾花が桜花寮へ七夜あおいを迎えに行くと、あおいはちょうど玄関から出てくるところだった。
　まだ６時前で門限前とはいえ、帰宅は絶対門限を越えてしまうだろう。
「何も問題はありませんでしたか？」
　待ち合わせの堤防までの道中に訊くと、あおいはにっこり笑って「うん、何も」と答えた。
「彰尋くんが先にいろいろと話してくれてたみたい。だから、海岸へみんなとシーグラスを探しに行きます、って言うだけですんじゃった」
「それは良かったですね」
「綾花ちゃんは何を持ってきたの？」
「私ですか」
　少しふくらんだかばんを興味津々顔で指差して訊いてくるあおいに、綾花は口を開いて取り出して見せた。
　帰り道用の懐中電灯とあたたかいお茶、猫の柄のついた潮干狩り用の熊手だ。
「あ、それ私も持ってる！　ちょっと待って――ほらっ」
　あおいが手提げバッグから大急ぎ取り出して見せたのは、綾花と色違いの同じ熊手だった。
「これで、いっぱい見つけようね！」
「楽しみですね」
　ふふっとふたり同時に笑った。

　寝子ヶ浜海岸に着くと、綾花はさっそくシーグラス探しに入った。
　波に濡れないよう、でも満潮時には届く、濡れてしめったポイントを慎重に探して、ここと思う場所を掘る。濡れた砂は掘りやすく、熊手で掻くと砂に埋もれていたいろいろな物が出てきた。
　なかにはポイ捨てされたゴミが出てきて少し悲しくなったけど、色のついた石や、きれいな貝殻なんかも見つかってうれしかった。
　どこも欠けていないきれいな貝殻や、シーグラスを掘り当てたときは、それが猫の目をしていなくても、そのたびに宝探しの宝を掘り当てたような気分になる。
　次はこっち、次はこっち、と手元だけ見つめて無心に掘っていたら、ずっとしゃがんで同じ体勢でいたのがつらくなってきて、体を伸ばそうと立ち上がった。
　腰をひねった綾花の視界に、自分が掘り進んできた熊手の跡が入る。
（なんだかカニさんが歩いた跡のようですね）
　以前テレビのネイチャー番組で見た、夜の浜辺のシーンを思い出していたとき。ふっといたずら心が沸いてきた。
　熊手で砂をがりがりやって、ウサギと猫が手をつないでいる絵を描く。月に棲む月兎と月猫だ。それを表すように、大きな丸い円で囲んだ。
　われながらうまくできたと腰に手をあてる。
「綾花ちゃん、何してるの？　――わぁ、月猫さんとウサギさん」
　すごく上手と褒めてくるあおいに綾花は照れてはにかみながら、お茶休憩をしないかと尋ねた。
「ありがとう！　綾花ちゃんはいろいろ考えて準備してきてるのね」
　広げた敷物の上にふたりで座って、魔法瓶のあたたかいお茶を飲みながら、今までに見つけた物を見合った。
「いっぱい拾ったの、すごい。
　これで何か作るの？」
「はい。満月をイメージした金色の輪に、真ん丸の猫の目シーグラスをはめてペンダントにできたらと思ってます」
「世界に１つ、綾花ちゃんだけのペンダントね。いいなぁ！
　あ。これ、猫の目っぽく見えない？」
　シーグラスの集まりのなかから、あおいが１つつまみ出した。
「本当ですね。気づきませんでした」
　受け取ったそれを満月の光で透かし見る。
「月猫さんは満月の夜は窓から地上を見ているそうですが。今の私たちも見えているのでしょうか」
「きっとね。こうやって月猫さんの涙を見つけてる私たちを見て、うれしがってると思う」
　あおいの言葉に、「そうですね」とうなずく。
　そうすると、本当にうれしそうな月猫の姿が浮かんできて、胸がほっこりした。
　後ろに手をつき、空を見上げる。
「きれいなお月さま……」
　お話は、月から地上にいる少年を思って泣いているところで終わっていたけれど。月猫さんと少年がまた会えてたらいいと、思った。
　

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