春の！プレゼント交換会｜リアクション

春の！プレゼント交換会

■三日月と音色の夜
　軽音楽部の活動を終えた帰り道。
　水川音葉が歩けば、背中に背負ったギターケースと彼女の黒髪ポニーテールが揺れる。
「ん？」
　鼻歌交じりでご機嫌に歩いていると、音葉は一枚の張り紙を見つけた。
「なんだろっ？　……プレゼント交換会？」
　面白そう！　と、音葉の黒い瞳は期待でキラキラと輝く。
（誰に届いて誰から届くかわからないって、ドキドキだね！）
　一目見て、参加を決めた音葉。
（今から楽しみだなぁ……私もプレゼント用意しないとね！）
　音葉は桜花寮へ向かって歩きながらも、悩む。
（誰に渡るかわからないけれど、せっかくだし相手が喜んでくれるようなプレゼントを……）
　そう考えていると、音葉はポストの前にいる一人の少女を見つけた。
　音葉と同じ位の身長で、真っ赤な髪を持つ小柄な少女。そばかすが印象的だ。
　少女は手に持った手紙を大事そうに、かつ嬉しそうにポストへと投函している所。
（きっと、心のこもったお手紙なんだろうな）
　少女が自分で書いたであろうお手紙。
　手紙だって、唯一無二のプレゼントと言えるだろう。
（そうだ！　せっかくだから、ちょっとだけ手作りに挑戦してみよう！）
　必要なものは……と頭の中で設計図を思い浮かべると、音葉はＵターンし、手芸品店に寄り道するのだった。

　そして、桜花寮の音葉の自宅。
　音葉は部屋に入るとギターケースを肩から下ろし、愛ギターの「アカ」を優しく立てかけた。
　その隣にはベースの「クロ」。
　おかえり、という言葉が聞こえてきそうな程、愛着のある楽器たちを音葉はそっと撫でる。
　ちょっと一弾き……とは思うものの。
「っと！　そうそう、忘れないうちにプレゼント用意しなくっちゃ！」
　そう言うと音葉は机の中から、大事にしまっていたギターピックを一枚取り出した。
　黒い背景に、青い三日月柄の入った神秘的でお洒落なピック。
（傷つけちゃうのが何だか勿体無くて、今の今まで使えなかったんだ）
　音葉はそのギターピックをしげしげと眺めてから。
「よっし！　今回はせっかくだからこれをネックレスにしてプレゼントにしようと思います！」
　高らかに宣言する音葉。
　このまま使わずに置いておく位ならば、誰かの手元に渡って身につけて貰えた方がこのピックも喜ぶだろう、と音葉は考えた。
　そして、鞄から手芸店で買ってきたキリや手芸用の紐を取り出す。
「えぇと、まずはキリを火で炙ってー」
　手芸品店の店員にギターピックをネックレスにしたい旨を伝えた所、丁寧に作り方を教えてもらうことが出来た。
　ライターでキリの先を炙り、熱を持たせる。
　手芸店の店員の作り方を音葉は頭の中で反芻しながら、慎重にギターピックにキリを差し込んだ。
　ゆっくり、そして丁寧にキリを回す音葉。キリがピックを突き抜けた感触は、すぐに感じられた。
「よっし、位置はバッチリ！」
　思わず笑みが零れる。熱を冷ますためにふーふーと息を吹きかけてから、空けた穴に金属の輪っかを通し。
　そこに、購入した黒い革紐を通せば……
「かっんせーーーい！」
　黒でシンプルに纏められたピックネックレス。
　落ち着いた青の三日月はシンプルで合わせやすいだろう。
（喜んで貰えるといいなぁ）
　音葉が目を細め、完成したネックレスに想いを込める。
　そして手芸品店で購入したラッピング袋にそのネックレスを丁寧にしまえば。
「よっし、無事にプレゼントも準備できたし！　ちょこっと、ベースも弾いていいよねっ！？」
　音葉はベースを優しく持ち上げ、セッティングを始めた。
　昼間、情熱的に弾いたギターとはまた違う、落ち着いたベースの響きに身を委ね。
　演奏を堪能する音葉だった。

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