春の！プレゼント交換会｜リアクション

春の！プレゼント交換会

■幸福のクローバー
　焦げ茶色の瞳が、ジィッとポスターを凝視していた。
　無感情に近く、何を考えているのか不明瞭な恵御納夏朝ではあったが、彼女の左手に居る猫型パペット『ハルくん』はパクパクと口を動かし、そのポスターへの興味を示しているのがわかる。
（プレゼント交換会……）
　気になったし、参加してみようと夏朝は思う。
（2千円……2千円……）
　歩きながら、夏朝は考え込んでいた。
　誰に届くかわからないものだから、男女どちらでも使える物にしたい、と思う。
（結構難しいね。無難なのはタオルとかハンカチなんだけど、もう少しひねりたいというか……）
　ふむぅ、と夏朝の表情がほんの少し思案顔に変わる。
　星ヶ丘あたりなら、きっと素敵なものが溢れてそうな気もするが、いかんせん設定金額は2千円。
　高級志向な星ヶ丘でのプレゼント選びは金額的に難しそうである。
（だったら、やっぱり）
　夏朝の足が動いた。
　向かうは、シーサイドタウンの中程にあるアーケード街、キャットロード。

（確か、雑貨屋さんがこのあたりに……）
　キャットロードに並ぶお店たち。一軒一軒眺めながら、歩みを進める夏朝。
　楽器店を覗けば、背中にギターケースを抱えた黒髪ポニーテールの少女の姿を見つけた。
　自分と変わらぬ背丈の少女が楽しそうな表情を見せるのを眺めつつ。
（あった、雑貨屋さん）
　コクリ、と頷き。夏朝はお目当ての雑貨店へ入っていった。
　
　春の雑貨店は柔らかく華やかな色彩で溢れている。
　そんな店内で、夏朝の目に留まったのは
（……七色の、七つ葉のクローバー？）
　葉の色が赤・橙・黄色・緑・水色・青・紫で構成されている。そう、虹と同じ色彩だ。
　夏朝は七つ葉のクローバーの煌めきに瞳を輝かせた。
　その七つ葉のクローバーはペンダントトップであり、よく見ると四つ葉と二つ葉と一つ葉のクローバーが合わさっている。
（可愛いし、綺麗……！）
　とても夏朝の好みに合うペンダントに、逆に夏朝は悩んだ。
（これは……迷う。ここまでの物をあげると『重い』気もするし……）
　しかし、しかしそれ以上に。
（何より……これ、僕がほしい……！）　
　無表情の中の焦げ茶色の瞳を輝かせ。
　夏朝はその七つ葉のペンダントを大事にカゴへと入れるのだった。

（さて。肝心なのは、他の人への贈り物……）
　夏朝は雑貨店の中をキョロキョロと見回した。
　愛らしい猫のブローチや猫をモチーフにした文房具などなど。
　自分用、贈り物用問わず琴線に響くものもある、が。
（できれば、幸せを呼ぶもの……）
　改めて、ペンダントを見つけたアクセサリーコーナーを覗いてみると。
（あ、四つ葉のクローバー……！）
　幸せの象徴、四つ葉のクローバーの飾りがついた布製のブレスレットを発見した。
（男女問わず似合いそうなデザインだし……）
　そっと値札を見れば、ギリギリ2千円以内。思わず夏朝の顔がほころんだ、
（よし、これにしよう！）

　ペンダントとブレスレットを手に、夏朝はレジへと向かう。
　柔らかな印象の店員が「プレゼント用ですか？」と聞けば、
「えっと、ブレスレットはプレゼント用で……ペンダントは自宅用、です」
　かしこまりました、と店員が器用に包装を施すのを、ワクワクした気持ちで見つめる夏朝だった。

　虹のように様々な色を見せる七つ葉のクローバー。
　店先で夏朝はそのペンダントを袋から取り出し、そっと掲げた。
　日の光を浴びると、七色の輝きは更に無数の色の濃淡を見せ。
（僕の未来も様々な色に輝きますように）
　自分だけでなく、大好きな人達や、周りの人が皆が幸せに。
　そう願いながら、夏朝はペンダントをそっと握りしめるのだった。

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