何でも屋『いぬもり』の楽しいにゃんこあつめ｜リアクション

何でも屋『いぬもり』の楽しいにゃんこあつめ

　クラスメイトの犬杜初から協力を仰がれた鴻上彰尋は、
「うん、事情はわかった。カメラ、取ってくるよ」
　と、頷いた。初が、ほっとした顔で「ありがと」と口元を緩める。
「そういえば、カメラ持ってるのね」
「ああ、うん。冬に買ったばかりのデジタルカメラだから性能はいいんじゃないかな？」
「じゃあ、益々期待できるわね」
「いや、俺の写真の腕前はそんなに上手くはなくて……」
　苦笑しながら、「とても、っていうわけじゃないけど多少は綺麗に撮れるよう努力するよ」と請け負う彰尋。
　初が、「期待してるわ」と悪戯っぽく笑う。
「それじゃあ、迷惑掛けるけどよろしくね」
「あ、犬杜さん、ちょっといいかな？」
「ん？　何？」
　そうして零された彰尋の提案に、初は瞳を煌めかせた。
「わ、いいわね、それ！　うん、あとで一閃お兄ちゃんにも話しとくから！」
　そう言って駆け去った初と別れて、彰尋はデジタルカメラを手に再び街へ。
（従兄さんと一緒に何でも屋とか、大変だよね）
　なんて思いながら、彰尋はデジタルカメラのファインダー越しに世界を見た。
　うん、具合は良好だ。自身の腕前のことを差し引いてもいい写真が撮れるはず……多分。
「ええと、依頼人さんは寝子島の出身って言ってたよな……」
　ならば、猫と一緒に、懐かしいであろう風景も写したい。
　そんな思いから、彰尋は小学校や中学校、高校の辺りを巡ることに決めた。
　小学校、中学校とそこそこ順調に撮影を進めて、彰尋はやがて寝子高前へと辿り着く。
「野良猫って、結構撮るのが難しいな……」
　それでも、餌付けをするのはちょっと気が引けてしまう彰尋である。
　なのでここまで、カメラを向けても逃げない猫を狙ったり、望遠機能を駆使したりでやってきた。
　今、改めてこれまでに撮った写真を見直しても、いずれも中々の出来だ。
　ただ――中学校で写したある１枚が目に映れば、羞恥に耳が熱くなるのを感じた。
（風景と一緒に、って思っただけなんだけどな……）
　思い切り屈んで、身体を捻って、猫と同じ目線でと写した１枚である。
　部活へ向かう中学生に、その時の体勢を目撃されたのだけがよろしくなかった。
（……あれは恥ずかしかった、うん）
　カメラで猫を捉えていたから不審者だとは思われなかっただろうが、あの視線は痛かった、と思い出す。
　そして高校は、土曜日にもかかわらず、中学校よりも余計に人口が多い。
（……ちょっと不安だ。撮影自体は楽しいけど……）
　それでも、出来るだけ沢山の写真を持ち帰りたいと、彰尋は辺りに猫の姿を探し始めた。
　依頼主さんが喜んでくれますようにと、そんな願いを胸に沈めて。

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