わっくわく！お菓子な課外活動！｜リアクション

わっくわく！お菓子な課外活動！

　また別の調理台には、生徒に混じって四十九院鸞先生の姿が。
　四十九院先生本人は、「楽しみですわぁ」なんてにっこにっこしているのだが、
（お菓子って自分で作れるんですのねぇ、とか、放っておくと怪我しそう……）
　と、内心ハラハラしている花厳望春を始め、彼女を案ずる者は少なくない。
　また、別の目的を持って、四十九院先生に近付く者もいる。
（このイベントを足掛かりに彼女の情報を聞き出して、クローネかそうでないかを見極めたいな……）
　というのが、胸の内に仕舞った新田亮の真の目的だ。
　ともあれ、亮もまたクッキー作りには真面目に取り組む気概を持っていて、
「普段から料理はしているんだが……お菓子作りはこうも大変なんだな」
　なんて、白沢絢子先生が説明するクッキー作りの手順に、難しい顔で聞き入っている。
　ふんふん、と谷咲苺喜も真摯に白沢先生の話に耳を傾けていたのだが、
「――わ、すごい」
　ふと視線が落ちた先にあった物を目に、思わず声が漏れた。
　調理台の上にあったのは、水上桜がこの日の為にルーズリーフに描いてきたデザイン画。
　苺喜の声と視線に気付いた桜は、白沢先生の話が終わった後で、
「どんなのがいいかなっていろいろ描いてるうちに、どんどんアイディアが浮かんできちゃって……」
　と、面映ゆげに、苺喜へと仄かに苦い微笑を零す。
　苺喜の茶色の瞳が、桜の話に煌めいた。
「こんなに沢山？　本当にすごいわね。普段からお菓子作りとかしてるのかしら？」
「中学３年の家庭科の授業以来よ。あの時はマドレーヌを作ったっけ。あ、でも……」
「でも？」
「私、アクセサリー作りが趣味なの。だから、こういうデザイン画はよく描くかな」
　そう言ってはにかんだ桜のデザイン画をそっと覗き込んで、
「素敵。本当に、アクセサリーみたいですね……」
　なんて、ふうわりと笑み零したのは、持参したエプロンを身に付けた御巫時子だ。
　いつの間にか桜と苺喜の周りには、同じ調理台の仲間が集まっていた。
　亮が、感嘆の息を漏らす。
「へえ、すごいな。……俺は、白沢先生の説明通りのクッキーになりそうだ」
「私は、鳥さんを模したクッキーを。皆さんは、作りたいクッキーってありますか？」
　時子の柔らかな問いに、「私はこれを」と桜がデザイン画を翳した。
　苺喜も、瞳をぴかぴかと輝かせる。
「私も、大体のイメージはあるんです。きっと上手に作れるはず」
「俺は、絞り出しクッキーを作ろうかなって」
　望春もそう応じて、それから四十九院先生へと眼差しを移した。
「先生は、どうされるおつもりですか？」
「私は……どうしましょう。皆さんのクッキーを見ながら、でも構いませんかしらぁ？」
　にこにことして、四十九院先生が答える。
　頷いて、時子が口元を花綻ぶように緩めた。
「ふふ、楽しいお菓子作りの時間になりそうですね」
　その声を耳に、望春もそっと眼差しを和らげる。
（四十九院先生のこととか、心配事がないわけじゃないけど……）
　それでも、他の学年の生徒との交流の機会が和気藹々としたものになりそうなのが、素直に嬉しい。
（お菓子作りなら多少は得意だから、１年生のお手本にもなれるかもしれないし）
　沢山の笑顔が溢れる時間になればいいと、望春は胸の内に優しい願いを沈めて、微笑んだ。

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