のんべえエアー注意報！｜リアクション

のんべえエアー注意報！

　寝子島のとある公園に、黒ずくめのスーツを着た美男子がいた。
　それは美しいほしびと、アケーチ・タッマーキ。
　非常に妖艶な容姿を持っている彼だが、残念ながらド変態だ。まあ本人はそれをさして気にすることもなく明るく元気に生きている。

　絵を描くことが得意なアケーチ。今日は天気も良いので似顔絵屋さんで一稼ぎしようと、画材を持って公園にやって来た。とある日から一緒に暮らし始めたピンクのもふもふ兎と一緒に。
　芝に座りながら気ままに楽しく寝子島の人々を描き、小銭を稼ぐ。疲れたらちょっと一休みして傍らの桃色うさたんと戯れたりして。
　青空の下の平和で幸せな１日。少し喉が渇いたアケーチは、水を飲もうと持っていたペットボトルの蓋を開け、まずうさたん専用の小皿に注いでやる。
　そしてさあ飲もうと１人と１匹が水を口にした時―――のんべえエアーが吹き抜けた。

＊＊＊＊＊＊＊

「……く、ふふ、ふふふふふふ……！」
　俯くアケーチの口から抑えきれない笑みが漏れた。アケーチの顔が静かに上がる。その美しい紫の瞳は、変態色全開だった。
「なんだか身体が熱いですね……！　いつも以上に火照っております、くふ、ふふふ……！」
　アケーチは恍惚の表情を浮かべると、くねくねと悶えた。
（嗚呼、熱いのです！　まるでお酒を嗜んだような……）
　とろんとした瞳でアケーチはご機嫌で更にごきゅごきゅと水を飲む。つう、と唇の端から水がしたたり落ちた。
　それを拭きもせずにアケーチはふうと熱い息を吐く。と、そこに高校生くらいの男の子が通りかかってしまった。

「……おやおやそこのお兄さん、どうか私に似顔絵を描かせていただけませんか？」
　背後から聞こえた声に振り向いた男の子は仰天した。目が据わったスーツの男が、いきなりネクタイを緩め、シャツをはだけさせて迫ってきたのである。
「え、え？」
　後ずさりする男の子。アケーチはその白い胸を惜しげもなく太陽の下に晒しながら擦り寄っていく。
「そんな事おっしゃらず。貴方の全てが見たいのです……！」
「―――け、結構です～～～！！！」
　男の子は半泣きで脱兎の如く逃げていってしまった。……心の傷にならない事を祈るばかりである。

（はっはっは、逃げられてしまいました）
　割と通報されるレベルだと思うが、アケーチは気にすることもなくその背中を見送る。そして芝に座りながら傍らのうさたんの方を向いた。
「残念ですね。……あ、うさたんは酔ってませんか？　ご無事ですか？」
　そう言いながらアケーチはうさたんを撫で撫でしようとして、驚いた。
「うさたん、私の目にはあなたは少女のようにしか見えませんが……幻覚ですか？」
　そうなのだ。下を向かなければ見えないはずの桃色うさたんは、今うさ耳少女となってアケーチと向かい合っていた。
　アケーチはぱちくりと瞬きした。これはどういう事だろう。この姿の彼女に会うのは、あの夢以来だ。あれだって、夢で、本当にあった事ではなく―――。
　そこまで考えて、アケーチは小さく首を振った。そんな事、どうでもいいではないか。幻覚だろうが、酔っていようが。私は、彼女が目の前に現れてくれた事がとても嬉しい。
　アケーチは突然正座をすると、ピンクのうさ耳少女に向かい合った。
「ちゃんとお礼を言いたかったんです。傍に来てくれてありがとうございます」
　そう言うと、アケーチは深々とお辞儀をする。そして顔を上げ、にっこり微笑んだ。
「……そして、これからもよろしくお願いいたします」

　少女が、笑った気がした。が、よく分からなかった。突然アケーチに強烈な眠気が襲ってきたのだ。
「……ふぁあ」
　大きく欠伸をすると、アケーチはこてんと少女の前に寝転がった。
「うさたん、私眠くなっちゃいました……」
　アケーチの美しい瞳が静かに閉じられる。自分の頭が優しく撫でられる感触を確かに感じながら、アケーチは幸せな眠りに落ちていった。

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