城柳塾：CMナレーションをやってみよう！｜リアクション

城柳塾：CMナレーションをやってみよう！

　収録は美咲紀、修のペアから始まる。
　マイクの確認中。待機していた美咲紀が
「……あああー」
　と、脈絡なく頭を抱えた。
「緊張しているのか？」
　美咲紀のリアクションに慣れている修は驚かない。話を聞いてほしいのだと察した。
「ノンノンですよー。さっき聞いた自分の声思い出したら、なーんか落ち着かなくなっちゃって。私って、ああいう声してるんですねー」
「俺達が聞いている声は骨に伝わっている音だからな」
「はうはうわー」
「おい、しっかりしてくれよ」
　我が身を抱きしめながら身悶える美咲紀の頭を、修は持っていたボールペンの胴で軽くたたいた。
　収録は滞りなく進む。
「『パソコン、勉強でお疲れの目に、シャキッと爽快！　ギガクール！』」
　明るい声の修。声に笑顔が足りないと指摘された修は窓ガラスで、練習中にしかめっ面をしていないか確認していた。
「『有効成分が目の隅々まで行き渡る！　疲れた瞳、元気になるよ！』」
　早口を指摘された美咲紀は一音一音をしっかりと読むように心がけた。
　収録を終えたふたりの胸に心地よい達成感が残る。
（ギガクール、贔屓してしまいそうだ）
　担当した目薬を見る度に今日の練習を思い出すのだろうな、と修は考えた。

　参加者の朗読は聞いてわかるくらいに向上していた。再生した自分の音声に皆の顔が明るくなる。
「浅葱さん、ポランさん。セリフのテンポが素晴らしく良くなっています」
「恐縮です……」
「浅葱さんの誠実で自然体な演技、お見事でした！」
　あやめの前髪がわずかに傾く。チャランのまっすぐな演技を参考にし、普段の接客を想像しながらの演技であった。
（お客様によりそう心……）
　想いが乗った声がスピーカーから流れた時、あやめは自分の判断が正しかったことを素直に喜んだ。
「先生っ。吾輩も褒められたいのだ！」
　ずい、と椅子から身を乗り出すチャラン。城柳先生は「いいところ、たくさんありますよ」と母の声で答える。
「まず、あやめさんとのチームワークが感じられたのを褒めたいです。今回のようにセリフを交互に話すことを『掛け合い』と言います。相手と呼吸を合わせ、お互いの魅力が引き立つように喋る……テンポのいい漫才師さんを想像してください。聞いていて心地いいですよね」
「確かに。テンポは大切でございます。観客と呼吸がそろう演技が理想でございます」
　フィギュアの経験を思い出しながらナスティが同意する。
「そう、呼吸が声の演技では最重要と言っても過言ではありません。
　初めの収録だとあやめさんがポランさんに合わせていましたが、今回はふたりで呼吸をそろえていますね。
　それと、腹式呼吸はポランさんが1番上手にできています。よく頑張りました」
「ぐふふ、ぐふふふ」
　惜しみない賛辞を送られたチャランは、目じりにしわができるほどの笑顔を作る。鼻が天井まで伸びた。
　やがて全員分の感想が終わる。参加者たちは教室の片づけを始めた。

このページにイラストを設定する