新年度のはじまりはじまり。体育科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。体育科編

「よーし。そろそろあたしも投げよっかな♪」
　新しいクラスで仲良くなった博美や侑や明里たちと、ガールズトークに花を咲かせていた神里エレナだったが、満を持してという感じでアプローチに向かった。
　エレナの腕前は、普通くらい。ストライクは出ないけど、ガターも出さないといった、大ぶれしないスコアを重ねていく。
「楽しむことも大事だけど、まずは結果を出した上での交流だもんな」
　博美もまた、安定したスコアを出していた。基本に忠実なフォームを心掛け、レーンの油の滑り具合もチェックするなど、レクリエーションとはいえ手を抜かない。
　相手に対する敬意として、博美はあくまでも真剣である。

　いっぽう侑は、午前中のホームルームでのできごとを思い出して赤面していた。
（そーいや、自己紹介おもいきり失敗しちゃったにー……。ううぅ恥ずかしー！）
　思わず顔を覆った侑であった。
「侑ちゃん、どうしたなの？」
「……あ。橘さん」
　のぞき込んだ明里を見て、侑はすぐに笑顔を返した。
「ううん。なんでもないよっ」
「よかったなの！」
　明里はあどけない顔に、天使の笑みを浮かべて言う。
「あかりが続けてガターだしたから、困ってると思ったなの！」
「うっ……」
　実は筋トレがあまり得意でない侑は、一瞬だけ顔をひきつらせた。しかしまたすぐに笑顔になると、明里といっしょに筋トレをはじめる。
　明里はものすごいスピードで腕立てを終えると、大きな瞳で侑を見つめていた。
「あれ。橘さん、もう終わったの？」
「うんなのーっ！」
「腕立て、速いんだねぇ」
　侑が感心した様子で言うと、
「もちろんなの！　だってあかりは、天使だから！」
　謎の理論で答える明里であった。
　そんな明里は、“ボウリングはとにかく楽しむ派”だった。にひひと笑いながら、ガター上等で元気よく放り投げている。
　投げた瞬間から溝に吸い込まれていくボールを見て、侑はとあることを思いついた。
「橘さんって、ストライクを狙ってガターになるんでしょ？」
「そうなの」
「だったら逆に、ガターを狙えばストライクになるんじゃない？」
「おおっ！　それは名案なのっ！！」
　明里はさっそく、侑のアイディアを取り入れて、わざとガターを狙ってみる。
　すると――。
　あれほど面白いように溝に吸い込まれていたボールは、レーンの中央をするすると転がり、うまい具合にジャストポケットに収まっていった。
　ぱたぱたと、ドミノのように倒れていく１０本のピン。結果はストライクである。
「わきゃー！」
　明里はへんてこな声を出すと、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、侑とハイタッチした。
「侑ちゃんのおかげなのー。ありがとうなのーっ！」
「よかったね、橘さん」
「うれしーなのーっ。ケーキ、いっしょに食べるなのーっ！」

「ははっ。盛り上がってきたな」
　ハイタッチする侑と明里を見て、博美が楽しそうに言った。
「あっ、そうだ。エレナさん。せっかくだし、あれやってみないか？」
　博美が提案したのは、『男女で投げると両想いになるウワサ』の実行である。
　もともと、普段から男子制服を着ている博美。今日は午前中が始業式だったため、女子制服を着て登校していたが、ボウリング大会では身体を動かしやすいようにとメンズ服に着替えていた。
「両想いって、友達とかでもいけるんだろ。ちょっとおもしろそうじゃないか？」
「いいね！　やってみよー♪」
　さっそく二人は、一つのボールを左右から挟み込むと、二人三脚のようにしてゆっくりと助走をつけた。
「せーのっ」
　掛け声を合わせて、博美とエレナはボールを投げる。
　ころころころ……バッコーン！
　レーンの真ん中をぶれずに転がったボールは、１０本のピンを気持ちよく吹っ飛ばしていった。
　博美とエレナの、友情ストライクである。