新年度のはじまりはじまり。体育科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。体育科編

「よ、楽しんでるかい」
　七峯亨が、真剣にボールを選んでいる詠寛美に話しかけていた。
「よっちゃんなら、どれ投げたって一緒だろ。元々、投げるのは得意なんだしな」
「ボウリングと投げ技は違う」
「はは、そりゃそーだ」
　なおもボールを吟味する寛美に、亨は軽口を叩く。
「どうせなら、ダブルを狙ってみたらどうだ？　取れりゃ組のパーティヒーロー間違いなしだぜ」
「そうだな」
「もっとも、ヒーローみたいな名前の割に、出会った時ゃヴィランだったが」
「むう……」
　辻投げ集団の一人として暗躍していた頃を思い出し、なんとも味わい深い顔をする、寛美であった。

　亨と入れ違いにやってきたのが、妹の凜乃だ。
　待ってましたなスポーツ交流会！　にワクワクが止まらない凜乃は、始業式で会った寛美に改めてご挨拶。
「やー、隣のクラスだったんだな」
「転校生の凜乃か。よろしくな」
「こっちこそよろしく。――そういやさ、名前カッコいいねぇ。Hero　MEって、勝つのは俺だ！　みたいな感じするじゃん」
「そうだな。いつだって勝つのは俺だ」
「あはは。いいねえその気迫」
　凜乃は朗らかに笑いながら、寛美の頭のてっぺんあたりを見上げた。
「あとさ、寛美は背もあるだろ。ちょっと羨ましいぜ」
「凜乃がやるのはカポエイラだ。体勢が低いほうが有利だろ」
「まー、それはそうだけどねえ」
「気にするな。どんな体格でも、それを活かした戦い方がある」
　あくまでも格闘家として意見を述べる寛美に、凜乃は思わず吹き出しそうになった。

　ところ変わって、こちらは兄貴の亨。
　なかなかの腕前を見せつけて、２年１０組のスコアを着々と伸ばしていた。真っ直ぐに打ち抜く技術と力はさすがの一言である。
　しかし、細かいコントロールはどうも苦手なようで、スプリットを出してしまうとスペアもままならない。
　１５ポンドの一発勝負。まさにリスクジャンキーの亨らしい内容だった。
「小細工は要らねえ。真ん中めがけて、スピードと回転を乗せて流し込むだけだ」
　ずっしりと重たいボールを掴むと、堂々とアプローチに立った亨。
　彼はすでに前の投球でストライクを出している。ここでまたストライクを出せば、“ダブル”が完成する。
　すなわち、クラス全員にケーキをふるまうことができるのだ。
「いくぜっ！」
　投球動作に入った亨は、ファールラインの手前まで大胆に助走をつけると、フロアを勢いよく蹴り上げる。
回転のかかったボールがぐんぐん加速して、先頭のピンに激突。
　すべてのピンが、ポップコーンのように弾け飛んだ。
「ひゃっほぅ、頂きィ！」
　見事ダブルを達成した亨。２年１０組の生徒たちには、めでたくご褒美のケーキが振る舞われた。
「わーい！　あたしまだ投げてないのに、二回も食べちゃった」
　おしゃべりに夢中だった神里エレナが、新しくできた友達といっしょに、ケーキを頬張っていた。
「ははは。チキンディナーも及ばねえ、見事に俺の日だ！」
「亨君、ありがとー」
「遠慮はいらねえぜ。――さあさ皆々様、どうぞ召し上がれ♪」
　亨が豪快に笑いながら、エレナの肩をぽんっと叩いた。