新年度のはじまりはじまり。芸術科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。芸術科編

●歌にこめて

夢宮瑠奈はのんびりとした足取りで美の泉へとやってきた。

「美の泉には足を浸すだけでも全身効果あったりするのかなあ？」
「深いらしいから、泳ぐのは危険かもね？」

この泉の水を肌につけると美しさが増すらしいという噂がある。
ただ一部を浸けて全身に効果がでるかは分からないし、そもそも真偽不明の話。

瑠奈は泉のそばに腰をおろすと、足先でぱちゃぱちゃと泉の水面を弾く。
その場の空気を全身で感じるように吸い込む。
きっとそれは、瑠奈のなかで新しい息吹になるだろう。

（ここに伝説がいろいろあるのも、分かる気がする）
（だってここは、こんなに人里とは違う世界を構築していて、あたしがとても小さく見えるから）
（だから素直に、その賛美を歌おうと思うの）

瑠奈の口から、歌が流れる。
この場に似合う静かな歌。歌が好きな瑠奈が、ここで感じたことを素直に受け止めた歌。

歌い終えると、泉に視線を移す。
ふと、伝説の１つに「ビジョーニャ」という存在がいることを思い出す。

（ビジョーニャさんて、どんなかな？）
（人なのかな、魚なのかな。もしかしたら猫かもしれない？）
（もしも会えたら、なにをはなそう。不思議なこの世界に、遊びにおいでっていおうか）
（一緒に歌ってって言おうか？）

「不思議がいっぱいのこの寝子島、来訪者には歓迎をしめさないとね！」

　　　* * *

●美しさよ永遠に

花椿涼太郎は美の泉にやってきた。
噂に聞いたとおり、色彩豊かなグラデーションを描く不思議な泉だ。

「美の泉……！　なんと素晴らしい泉だろう……！」
「まさにこの僕のためにあるような泉だよね！」

涼太郎は歓喜しながら、ポケットから白いハンカチを取りだす。
この泉の水を肌につけると美しさ１２０％になる、という噂がある。
それをさっそく実践してみようと、それを泉に浸す。
そして自分の顔や体に即席のパックを施す。

「はーっはっはっは、更にこの僕の美しさがアップしたら、ナルキッソスも嫉妬だけじゃすまなくなるよね！」

効果を確かめようと泉を覗き込む。

「どれどれ？　更に更に美しくなっているかな？」
「あぁ、僕のお肌が更にしっとりツヤツヤと……！　更に美しく……」

そのとき、ふと違和感があった。泉に映る自分の顔が変化したのだ。

「え？　僕の顔が変わった！？　誰？」

よく観察すると、そこに居たのは魚だった。
おそらく伝説の美の人面魚と呼ばれる「ビジョーニャ」だろう。
泉は深くて底が見えないが、この魚が水面近くまで来るというのは聞いた気がする。

「はーっはっはっは！　こんなに美しい顔を持つ魚は初めて見たね！」
「だがしかし！　この僕の美しさも相当なものだろう？」
「よし、僕と美しさで勝負だ！　先に顔を背けたほうが負けだからね！」

まるでにらめっこの如く、美しい表情とポージングを次々と繰り出す涼太郎。
魚も引き返す様子を見せず、涼太郎と対峙したまま。

白熱する美しさ対決。激しさを増す涼太郎のパフォーマンス。
しかし夢中になりすぎて、うっかり足を滑らせてしまう。
体勢を立て直す間もなく、そのまま泉へと落ちてしまった。
魚もこれには驚いて、泉の中心部へと潜っていった。

浅瀬なので溺れる心配はないが、全身ずぶ濡れである。
しかし涼太郎は髪を片手でかきあげると、ポーズを決めた。

「はっはっは、水も滴るいい男とはこのことだね☆」

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