自動販売機の精｜リアクション

自動販売機の精

●『マッチョウォーター』の精
「あーー、喉乾いた」
　角刈り！　強面！　筋肉質！
　背が高く、ワイルドな風貌もあって威圧感をバリバリに発しているのは魚塚源三。
　通っている柔道道場の帰り道、喉の渇きを自覚した途端、目の前に自動販売機があることに気がついた。
「コンビニ行くより近ぇし、ここでいっか」
　ジロリ、と自販機のラインナップを見据えれば、一つのドリンクを見つけ。
「動いた後はスポーツドリンクに限るぜ！」
　源三が小銭を投入し、購入したのはスポーツドリンク『マッチョウォーター』
　プロテインの配合量が桁違いらしいそのドリンクを源三が取り上げ、フタを捻れば。
「うお！？　なんじゃこりゃぁっ！？」
　途端に辺りを覆うモクモクとした煙。源三は一瞬にして視界を奪われた。
（もしかして、俺が昔ぶちのめしたヤローども……復讐か！？）
　口を覆い、源三が身構える。奇襲に即座に動けるよう周りを見渡すが、どこからも人の気配は感じられず。
「……ふん。自販機が壊れただけか？」　
「ご主人様」
「あぁん！？」
　突如、源三は声をかけられた。人の気配に敏感になっていたはずなのに、気配に全く気付けなかったことにイラつきながら、源三は声のする方に視線を飛ばした。
　その先には、源三よりいくつか年上に見えるジャージ姿の男の姿。
　爽やかな笑みを浮かべているが、雰囲気はどこか浮世離れしている。
「あんたいつの間に？」
　また、手に持っていたはずのドリンクがないことにも気づき。
「ってか、俺のスポドリどこやった！？」
　突然現れた男はジャージの上からでも筋肉質に見え、スポーツドリンクを愛飲しそうな人種である。
　きっとコイツがドリンクを奪いやがった可能性が高い、と源三は睨む。
「俺が、そのスポーツドリンクです」
　落ち着いた言葉を話す男に、源三は眉をひそめた。
「あぁん！？　何言ってんだ兄ちゃん。バカにすんじゃねーぞ？」
「バカになどしてません、俺はスポーツドリンクの精霊です」
「そんなメルヘンチックな冗談はガキ相手にしやがれってんだ！」
　ジャージ男に近づき、相手の目を真っ直ぐに睨み付ける源三。だが、男は怯むことなく源三の瞳を見返した。
「あなたは選ばれたのです。願いをなんでも一つ、叶えて差し上げます」
「願いをなんでも、だぁ？」
　値踏みするように相手の姿を見、源三はニヤリと笑んだ。
「へへ。あんた見た感じ強そうじゃねぇか。俺と勝負しやがれ！」
　三度の飯より喧嘩好き、の源三。強い相手と戦うのは大好物だ。
「ルールは何でもありだ。ここじゃ思いっきり暴れられねぇし、道場行くぜ」
　そう言い、歩き出そうとする源三の背中に、ジャージ男は声をかけた。
「ご主人様の願い、承知しました」
　ジャージ男がパチン！　と指を鳴らす。
　すると先程まで自動販売機前だった場所は、源三が見慣れた道場へと変わっていた。
「……なんだ、これ……？」
　いつもの道場。だが、人の気配や声はなく、静けさに包まれている。
　己の姿も、いつもの柔道着へと変わっていた。
　そして。
「あなたの相手をしましょう」
　目の前に居た彼もまた、柔道着姿だった。
「……上等じゃねぇか。さぁ、楽しませてもらおうか！」

　……気がつけば、源三は自販機の前に座っていた。
　手には冷えたままのスポーツドリンク。
　ぜぇぜぇと肩で息をしながらそのフタを開き、ドリンクを一気に喉へと流し込んだ。
　結果は、源三の勝利であった。だが、余裕と言うよりは辛勝といった所だろう。
「……ふん。いつでも、再戦受けてやっからな」

　ペットボトルに向かって、源三は笑みを浮かべるのだった。

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