PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●鴻上彰尋の場合

　鴻上彰尋は眉間に皺を寄せていた。
　ここ最近、おかしい。
　異常に視線を感じるのだ。
　自宅で家事をしていても、お風呂に入っていても、学校の授業中も、放送部の活動中も。
　ねっとりとした視線は不快感ハンパない。
　友人に聞いてもハテナ顔を返される。自分しか感じていないようだった。

（気のせい、か……）
　自宅にいた彰尋は、祖父の台本を手に取り。
（集中できることをしよう）
　いつも練習を行う公園へ向かうのだった。

　木に向かい、彰尋は台本に描かれた台詞を発した。
「君は、僕から逃げてばかりだ」
　一呼吸置き。
「君のことを愛している。なぜ、それがわからないのだ？」
　……うん。やっぱり少し恥ずかしい。　　
「もう、僕の前から逃げないでおくれ！」
「えぇ、そうよね、わかったわマイダーリン！」
　突然、木の影からレトロなワンピース姿の少女が現れた。
　予想外の登場にビクッ！と彰尋は後ずさる。
（人がいない場所を選んだのに……）
　少女はうっとりとした眼差しを彰尋に向けた。
「そんな熱い告白されたら、出てこないわけには行かないわよねえ」
　胸の前で腕を組み、潤んだ瞳で彰尋を見上げる。
「あ、あの、これは演技の練習で、あなたに向かって発したわけじゃ……」
　必死に説明するも、彼女は
「ふふ、やっぱり想いって伝わるのね～♪」
　残念、耳に入っていない。
　彰尋が肩を落とすと……彼女には、あるはずのものがなかった。
　足が、ない。
「！？」
　驚いて彼女をもう一度眺める。
「朝ごはんの卵焼き、今日はあたしの大好きなだし巻き玉子だったじゃない、そんなアプローチされたら惚れちゃうわよ～」
　確かに、卵焼きを作ったがそれは断じて偶然だ。
「お昼ご飯のプチトマトも『あ～ん』してくれたし♪」
　確かに、プチトマトを一個落とした。しかも落としたはずなのに見つからなかった。
「そして、今の熱い告白……！　やっぱりあたし達は相思相愛なのね！」
　だいすき！　と抱き付こうとしてくる彼女を彰尋は避けた。
「だからあれは、演技の練習でっ」
　少女は確かに愛らしい顔をしている。が、流石に幽霊さんとのお付き合いは難しい。
「んもぅ……照れ屋さん☆　さっきの告白のあとも照れてたものね、可愛いっ」
　どうやら話が通じない系幽霊のようだ。
（塩でもかければ成仏するんだろうか……）
「……やっぱり、似てるのよね」
　少女が呟いた。
「え？」
「あたしね、本当はあなたに会いに来たんじゃないの。本当に会いたかった人は、もういなかった」
　何を言ってるのか分からず、彰尋は次の言葉を待った。
「でも、あなたがいた。これは運命としか考えられないわ」
　少女の目が怪しい光を放つ。
「ね、あたしと一緒にあっちの世界にいきましょ？　きっと楽しいわ」
　彰尋に近寄る少女。その目はさっきまでの生気がない。
　後ずさりすると、背中に木の感触。追い込まれ、彰尋は必死に語り掛けた。
「好意を持ってくれた気持ちは嬉しいけれど……好きな人がいるので、気持ちに応えられない」
　ごめんなさい。
　彰尋は精一杯頭を下げた。
「……演技じゃ、なさそうね」
　少女の言葉に彰尋は頭を上げた。
　彼女の頬には一筋の涙。彰尋の苦手とするものの一つだ。
「あ～あ、またフラれちゃった。あなたにも、あなたのお爺様にも」
「えっ」
「さっき、あなたが読んでた台本、あたしリアルタイムで観たのよ？　羨ましいでしょ？」
　頬に滴る雫を拭いながら彼女は笑った。
「わかった、今回は諦めるわ。でも、最後に一つだけ……」
　しんみりとした彼女に、出来ることなら応えてあげたい、と彰尋は思う。
　が。
「あなた、あぁんな所にホクロあるのね☆」　
　キャッ☆と悪戯に笑いつつ、彼女は光へと消えた。
「いったい、どこにあるんだ……！？」
　彰尋の謎は深まるばかりだった。