PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●桜月の場合

■私の話
　ある夜、私は恋に落ちた。

　自暴自棄になり、夜の街を徘徊していた時に美しい少女に出会った。
　月光が彼女を照らせば、彼女のその淡く優しい白色の肌と髪を美しく引き立て、赤い瞳は妖しさを増幅させた。
　そっと後を付けると、彼女は星ヶ丘の寮へと消えていった。　

　―また、彼女に会いたい。
　月夜の一方的な逢瀬で私は生きる希望を持った。
　しかし、それ以上に病魔は強大で。　
　彼女の姿を二度と見ることなく、私は息を引き取った。

　この世の生を終えた私は真っ直ぐに彼女の住む寮へ向かった。
　
　私は直ぐに、デスクに向かう月の姿を見つけた。
　想い人に会えた喜びで後ろから抱き付こうとする。だけれど、なぜだか彼女に近寄ることが出来なかった。
　彼女の影が、異様な存在感を示しているからだ。

　仕方なく、真剣な眼差しで手元を動かす彼女を静かに眺めた。
　シャッシャッとカラフルな色鉛筆がクロッキー帳を彩る。
　愛らしい服装のデザインに
（素敵……）
　思わずため息が零れた。私も元気だったら、こんな素敵な服を着れたかもしれない。

　月とクロッキー帳を交互に眺めていると、窓の景色はあっという間に闇に包まれていた。
　満足気な表情で月がデザイン画を見返す。そして彼女は時計を見た後、己が着ていた部屋着に手をかけた。

　ニットのワンピースはオフショルダーで胸の谷間もくっきりと見える。形良く大きなバストを強調していた。
　肌も露わになった月の姿は完璧なプロポーションで、まさに芸術品としか思えなかった。

　月は一体のトルソーを選んだ。
　私は、嬉しさのあまり目を細めた。
　赤と黒を基調としたゴシックロリータのワンピース。私が彼女と出会った日に着ていたもの。これも彼女のデザインだろうか、と私は思う。
　時間をかけてゆっくりと、そのワンピースを身に着ける。
　着替えが終わると、彼女はノートにペンを手に取った。そして、日傘。
　そして部屋の窓を開けると、彼女は強く目を閉じていた。

（どうしたんだろう？）
　そう思った瞬間。
　彼女の影が動いた。そして這い出るように彼女の影が盛り上がり……彼女と同じ大きさの影となった。
　月はどこか畏怖を感じた瞳を向けていた。無論、私もだ。
　影を置いて、月はヒラリと窓から飛び出した。
　私も彼女に続こうとした、が彼女の作り出した影は私の姿を押さえつけるかのように私をじっと見据えていた。

　どの位時間が経ったのだろう。
　出掛けた時と同じ姿で月は戻ってきた。影はそれを当然とするように、ゴスロリワンピースを丁寧に脱がしていく。
　
　ふと気づけば、月の頬が紅潮していることに気づく。
　頬だけではない。うっすらと全身が潤い、月から色気が醸し出されていた。
（あぁ、きっと好きな人のことを考えているんだろう）
　女の勘、だ。
　露わになっていく彼女の肢体。美しく白い肌。私が見たかったもの。
（でも、この瞬間の彼女の姿は、私だけのもの）
　そう考えると、影が私を凝視した。違う、と怒っているのを感じる。
「ん？　どうかした？」
　月が声を発した。影に声をかけたようだ。
　しかし影は気にせず私を睨み続けた。
「……不思議だ。まぁいいか」
　そう言うと、彼女はシャワー室へと消えていった。

　紫のベビードールに身を包んだ月は更に官能的で。
　透けた生地が彼女の妖艶さを引き立てる。
　そしてベッドに潜り込み、彼女は寝息を立てた。

　彼女の安らかな寝顔に、私の胸は熱くなる。
　おぞましさを感じさせる彼女の影はその存在を消していた。
　そっと口づけようと顔を近づけるが……私は耐えた。
　あまりにも純粋な寝顔。様々なものに愛される彼女を汚してはならない、そう感じた。
　せめて、彼女の幸せを願おう。美しい月の夜の散歩を、空から見守ろう。

　そう思うと、自分の身体が光に溶けていくのを感じた。