だんじょん＆にゃらごん　世界樹の塔｜リアクション

だんじょん＆にゃらごん　世界樹の塔

■可能性の大樹・Ａエンド
　あるときから、八神修は不思議な感覚をとらえるようになっていた。
　自分が自分で無いような、ここが自分のいるべき世界でないような感覚である。
　だがその感覚は、塔を登れば登るほどに薄れ、逆に『塔の先には自分にいるべき世界があるのでは』と考えるようになっていた。
「……」
　修は知っている。この世界に限らずどんな世界であったとしても『いるべき場所』などというものはないのだ。
　自分の居場所は自分で作る。それが人という生物の本質であり、生き方なのだ。他人も、環境も、世界ですら、自分の居場所を決めてなどくれないのだから。
「またこの感覚か。だめだな、複雑な本を読みすぎたかもしれない。心理学の勉強も深めておこうかな」
「シュー君また勉強の話してる……」
　額に手を当てて息をつく修に、椿美咲紀がげっそりとした声をあげた。
「シュー君はもっと小説を読むべきなのです。ロマンスや冒険のお話をこう……」
「文学なら一通り納めてる」
「もっとラノベよみましょうラノベ！」
「らの、べ？」
　不思議な単語を使うなあこの戦士は、という顔で――修は霊体モンスターたちを祝福の光で蹴散らしていた。
　体力や魔力といったものの差を相性で埋めるのが修のスタイルである。
　美咲紀は美咲紀で、包帯ぐるぐる巻きのミイラを剣でばしばしたたきつぶしていた。
「ここはなんでしょうねえ。大きなお墓みたいなダンジョンですけど」
「それも金持ちの墓、って感じだな」
　花菱真紀は黄金の棺から宝石を抜き出しては袋に詰め込んでいた。
「墓荒らしはバチがあたるのですよ！」
「空いてた棺から少しわけてもらってるだけだよ。強欲な墓荒らしがどんな目にあうかくらい想像つくって……ん？」
　棺の底に違和感を覚えた。
　真紀は違和感の正体を探るべく、慎重に棺の側面をなでていく。
　そして。
「見ろ、仕掛けがある」
　巧妙に隠されたスイッチの存在を、ついに探り当てた。
　ごとごとと音を立てて開く隠し通路。
「二人とも、危険なのです。私の後ろに隠れててください！」
「不本意ながら頼らせて貰うよ」
「俺たち紙装甲なもんで」
　重装備の美咲紀に隠れるようにして通路の奥へ進んでいく。
　そこには、大きな扉が存在していた。
　両開きの扉。
　表面にはペイントがなされ、不思議なタッチのイラストが描かれている。
「変な絵だな。人が描かれてるけど、全員横向きっていうか、なんかこう」
「平面画法だ。立体的なものを平面で表現する際に奥行きなどを無視して――」
「説明ストップです！　それより絵の内容がヘンじゃないです？」
　難しい勉強の話をしだした修を遮って、美咲紀はイラストの一部を指さした。
「二本足のネコと人間が、何かを交換してるみたいに見えます」
「ふむ……」
　修は解読の魔法を唱えて壁の表面を撫でた。
「『古代ネコ文明』……？」
「よくわからんけど、この先が最上階なんだろ？　行ってみようぜ」
　真紀はニッと笑って、扉を強く押した。

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