眠れぬ夜はどう過ごす？｜リアクション

眠れぬ夜はどう過ごす？

桜花寮の一室、二段ベッドの下の段。
羽生碧南は横になっているが、眠りに就くことができずにいた。
明日はバスケ部の朝練があるでもなく、その気になれば昼過ぎまで眠れるはずだけど、全然眠れない。
時計に目を向けると、既に時刻は午前０時３０分。普段ならもう寝ている時間である。

「あー、もうどうしよう。なんで眠れないのよ」

碧南は布団にくるまりながら愚痴をこぼす。
しかし眠れない以上どうしようもない。
眠くなるまで何をどう過ごせばいいのかな、と考え始める。

今は春休み。同室の子は本土の実家へ帰省中。

「ということは……？」

ここで碧南はあることに気づいた。今攻略中のゲームが出来るのではないか、と。

『幻想恋鎖』（初回特典付き限定バージョン）。
攻略対象８人の乙女ゲームで、現在７人まで攻略済み。

「残りはあと１人……！　よし！」

碧南は思い切って今夜コンプすることにした。

そうと決まればさっそくプレイ開始。最後の１人、桐島千明に挑む。
本命キャラは最後まで取っておくのが彼女の流儀。

桐島千明は明るく陽気そうな外面とは裏腹に、心の一部が永久凍土のような状態。
そんな彼の心をどう溶かすか。それが攻略のカギとなる。
無事トゥルーエンドを迎えるか、バッドエンドになってしまうのか。
命運は碧南の腕に託された。

１つ１つの選択肢で手に汗を握る。

なぜそこまで緊張するのか。
それは桐島ルートは１つでも選択肢を間違えるとバッドエンドになってしまうから。

だから選択肢のたびに集中力を高めていく。
仮に今眠気が来たとしても、ゲーム中は抑えられてしまうだろう。

ゲームはついに終盤へ突入。桐島千明と２人きり。そして現れる選択肢。
これがおそらく最後の選択肢だろう。碧南は持ちうる限りの集中力をそこに向ける。
どれが正解か。ここで外すわけにはいかない。
覚悟を決め、１つの選択肢を押した。

物語が終わりを告げ、エンドロールが流れ始める。
そこには桐島千明の満面の笑顔。心の氷が溶けた晴れやかな表情。
碧南はついに本命キャラを攻略し、無事『幻想恋鎖』をクリアした。

エンドロールも終わり、スタート画面へ戻ってきた。
今までの緊張と疲労が一気に碧南にやってくる。
そのまま満足そうな笑顔を浮かべてベッドに横たわると、すぐに眠りに就いた。

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