眠れぬ夜はどう過ごす？｜リアクション

眠れぬ夜はどう過ごす？

「組手がどうにも下手で。お付き合いくださいませ」

シーサイドタウンにある、とあるシェアハウス。
そこに住む七峯鷹梅は、同じシェアハウスに住む弟・七峯亨に声をかけた。

「付き合うぜ」

だいぶ遅い時間だが、寝苦しさを感じていた亨はその誘いを快諾。
２人はスポーツインナーに着替えると、十分な広さのある和室へと移動した。

軽いウォームアップだけ済ませると、すぐに向かい合いそれぞれの構えをとる。
そこから次の展開がくるまで一瞬だった。

先に仕掛けたのは亨。間合いを一気に詰め、軸足の膝めがけて蹴りを繰り出す。
そこから腰に追撃、そして体制が崩れたところで横腹へ３発目を打ち込む。
鷹梅はその連撃をかろうじて捌き、致命的なダメージだけは避けている。

しかし矢継ぎ早に飛び込んでくる攻撃に防戦一方。
鷹梅が体制を立て直して反撃を試みると、亨はそれを受け流して膝蹴りと投げ技を使ってくる。

「攻め手休めず、目逸らさず。突っ返す隙を狙う。ＯＫ？」

亨は話しかける間も気を緩めず、
鷹梅に対して頭突き、鳩尾から顎への膝蹴りと続ける。

「どうも気圧されます。あと、些か早……」

鷹梅の発言が終わる前に、しれっと『縮身』で身長を縮める亨。
鷹梅の戸惑いをよそに、亨は縮むのをやめない。
亨から見て、鷹梅は背も膂力も十分ある相手。だから気を張り詰め、手加減はしない。

「これでもまだビビるか？」

亨の縮みきった姿。それでもなお勝ち誇った顔で煽る一言。
その言葉や姿は、鷹梅の負けず嫌いな精神に鋭く刺さった。
戦闘再開である。

鷹梅は先ほどまでの防戦一方の状態から一転、強く踏み込み突進。
亨を轢き潰すという明確な目的をもった攻撃。
それを亨は飄々と躱す。だが眼中に常に捉え、追撃を続ける鷹梅。

「楽には斃しません、御覚悟を」

拳に平手、蹴撃に蹂躙、噛み付きに突進。
その姿はさながら獣のごとし。
攻め手を休みなく、時には騙しを交えて亨に放つ。

対する亨はそれらを躱しつつ、身体強化を生かした急所狙いの一撃離脱を仕掛ける。
時化の如く荒れる畳の上を軽々と、踊るように指や爪の間、踝、踵へと打ち込む。
それらは鷹梅に効いているはずなのに、動きを止める様子もなく、なおも亨を攻め立てる。

「そうだ！　捉え続け、攻め続けろ！」

鷹梅の折れぬ闘志に亨も呼応するように気迫をこめる。
僅かな隙間をすり抜けて脚部や腰上へ跳躍。
そこから五体の神経が集中している部分へ縦横無尽に飛び回り、連続攻撃。
さらなる一撃を加えようと構え、飛び掛かる。

その刹那。鷹梅は目を閉じた。
自分に近づく気配に合わせて目を開き『鷹羽白梅』を発動する。
梅花の混じる鷹の翼を生やすと、その圧倒的な面積で亨を打ち据える。
さらに間髪入れずに踏みつける。

「上出来、だがお互い様」

これにて終了かと思われた。しかし亨は極限まで縮み、畳の目に潜り回避していた。
一気に跳びながら『縮身』を解除。最大速の飛び膝蹴りを鷹梅にお見舞いする。
亨は再び小さくなり構えを取り直す。
鷹梅も構えるが先程の膝蹴りが事実上の決定打となり、この組手に決着がついた。

鷹梅は巻き返されたものの、心はどこか晴れやかだった。
疲れ果てた２人はそのまま和室で横になった。
亨は縮んだまま眠りに就いたが、鷹梅は寝相の悪いふりをして亨にちょっかいをかける。
握ったり、指で転がしたり、軽く頬を乗せたりと。

しばらくそうしていると、亨が小さな体を揺らしながら、目を開こうとしていた。
それを見て、鷹梅は慌てて眠っているふりをする。

亨は目を完全に開くと、体に違和感を覚えた。
どうやら鷹梅の寝相に巻き込まれているらしい、と感じた。
やれやれ、と思いつつも元の体に戻り、鷹梅を抱き上げて彼女の寝室へと向かう。
鷹梅を横に寝かせ、布団をかけると亨は自分の部屋へと戻っていった。

鷹梅は抱き上げられた時驚きつつも、寝たふりを続けていた。

（……だってちょっと、憧れるでしょう？）

鷹梅は自室の布団に包まれながらそんなことを思った。

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