乙女のプロパガンダ｜リアクション

乙女のプロパガンダ

「ほうほう、まさに噂通りの現象が起きたようですね！」

　廊下に置かれた掃除用具庫の陰から様子をこっそり窺っていた文は望春が倒れたところを見届け、ようやく浮月と接触することにする。

「とっつげき！インタビュー！！どもどもー、非公式新聞部の音無と申しまーす。寝子高で最もニャンダムのクロテオを愛している方として評判の浮月綾世先輩、是非クロテオの魅力をお聞かせ下さーい！」

　ハイテンションにいきなりインタビューを申し込んだ文に対して浮月は慌てる様子も驚いた様子もなく、ほんの少しだけ頬を染めて小さく咳払いする。

「そ、そうね、いきなり聞かれて纏まった答えを出すのはちょっと難しいのだけれど……。やはり敵同士なのに惹かれあってしまうところや、悪い大人が健全な少年を快楽で堕としていくのが堪らないって言うか……テオルも従順な性格じゃないから、反発して、それを調教されて、みたいな展開がやっぱり王道じゃないかと思うの。公式でも捕虜ネタがあったけど、あれ、テオルが脱走するまでの間に絶対何かあると思うのよね。実際同人誌でもそのエピソードを描いたものがあるし。そんな感じで公式にもプッシュされているところもテオクロの魅力じゃないかしら」

　同人誌片手につらつらと穏やかに、しかし情熱的に語る浮月にボイスレコーダーを向けながら文は「はて？」と首を傾げた。
　浮月の語りは確かに熱が入っていて、今自分が持っている同人誌の内容についても詳しく言及しているのだが文の頭には浮月の話を聞いて自分自身が抱いたイメージしか沸いてこない。

（さっきの人は噂通り頭の中にイメージが流れ込んできていたように見えましたけど……私は全然ですね）

　首を傾げながらも浮月の話に耳を傾けていたが、話はなかなか終わりそうになく頭の中にイメージが流れてくる様子もない。
　日も落ち始めてきたので、廊下に倒れたままの望春にちらりと視線を落として文は取材を切り上げることに決めた。

「成程成程、お話ありがとうございましたっ！それにしてもクロテオですか、いや悪くないとは思うんですけど、やっぱり私としてはテオクロを推したいですね、最初はクロームさんがリードしようとするんですけど、テオルさんが押し返して……って、何言わせるんですかっ！ち、違いますよ！違いますからね！」
「あらあら、恥ずかしがる必要はないじゃない」

　腐女子であることを必死で否定する文の様子に浮月はくすくす笑う。

「でも先輩、そんなに熱い想いを持ってるなら興味ない人より興味がありそうな人と話した方が面白いと思うんですけど。部活とかには入ってらっしゃらないんですか？」
「興味を持ってない人に持ってもらえると嬉しいもの、十分面白いわ。でもそうねぇ、ネットやイベントでよく話す友達はいるけど、学校ではいないかもしれないわ。部活、部活ねぇ……」

　文の言葉が浮月の心のどこかに引っかかった。
　しかし当の文はそんなことには気づかず、「しょうがないですねー」と倒れていた望春をずるずる引き摺りながらその場を去っていったのだった。