猫「占い」！―未来とは何か？―｜リアクション

猫「占い」！―未来とは何か？―

　御剣刀は本来占いに興味はない。
　占いを否定する訳ではなく、未来を知る手段の一つだとは思うけれど、今の積み重ねが未来だと考える方である。
　自分の望みが叶うかどうか、目標に手が届くかどうかという内容は、今を全力で生きている彼には不要のものである。

　そんな彼がなぜNの店にいるのかといえば、なんとなく、としか言いようがない。
　本当になんとなく、気になったので寄ってみたのだ。

　あえて言うならば、彼にとって何者でもない、つまり接点の皆無な相手との会話に興味があった、ということは言えるかもしれない。

「では、何を占いましょうか？」
「ん～……」

　とはいえ、上述の通り、彼は占いをあまり必要としていない。
　より良い未来というのは気の持ちようでもあるし……などと考えていると、いよいよ占って貰うことがなくなってきた。

「今日の晩飯は何がいいかな？……って聞いたら怒ります？」

　一人暮らしをしていると、この質問は出来ないから、ちょっと楽しいというか嬉しいというか。
　晩飯を占って貰う男、御剣刀。
　……うん、面白い。

　とはいえ、占い師さんに失礼に当たるのではないか、と気を回してしまうのが彼の彼たる所以である。
　そんな御剣に、

「構いませんよ。どんな些細なことでも、本当は些細でなかったりするものです」

　Nは快く応じた。
　Nが差し出してきたカードの束から一枚を選んで手渡す。

　Nはカードをあらためると、一瞬、固まった。
　御剣はキョトンとした様子でそれを見ている。

「まず、あなたを猫で例えると、シャムです」
「へえ？」

　シャムは現在のタイ原産の猫で、昔は貴族だけがペットとして飼うことを許されていたと言われる猫である。

「本来は好奇心も旺盛で、明るい性格なのですが、警戒心も強く、最初はクールな印象を与えてしまいがちです」

　それには御剣も思い当たる節があった。

「それで、今日のお夕飯ですが……えーと……」

　Nは明らかに言い淀んでいる。
　晩飯占いで一体何を言いよどむことが、と御剣は首を傾げたが。

「女性……でしょうか」
「………………は？」

　たっぷり１０秒ほどは沈黙してから、御剣は聞き返した。
　自分の耳がおかしくなったのだと思ったからだ。
　そうだと言って欲しい。

「女性、ですね。そのつまり――」
「いやいやいや！」

　女性って、女性って――！
　食べちゃうってそういうこと！？
　いや、どういうことだ！

「ふふ、冗談です」
「……びっくりさせないで下さいよ」
「あながち冗談でもないのですが……」
「冗談ってことでお願いします！」

　これはあれか、晩飯を占って、なんて言った意趣返しか何かだろうか。

「そうですね。りんごを使ったお料理など如何でしょう？」
「りんご、ですか？」
「はい。りんごです。お夕飯にりんごというのも難しいかもしれませんが、例えばポークソテーのアップルソースとかいいかもしれません」

　レシピを書きますね、と猫柄の便箋にさらさらと書いていくN。
　女性を食べちゃえショックから未だ抜け出せない御剣は、丁寧な字だな、などと思いながらそれを見ていた。

「はい、どうぞ」

　便箋を受け取ると、御剣は礼を言ってその場を離れた。

「よし、これだな」

　レシピを眺めながら、材料はあそことあそこで……と、頭の中で参道商店街のお店をリストアップする。
　今度はご飯の感想を言いに来ようかな、などと考える。

（上手く言えないけど、こういう風な感じで話せる人がいるっていうのは、楽しいというかありがたい感じがするな）

　意外とおちゃめな人だったけど……などと思いつつ、御剣は材料の買い出しに赴くのだった。

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