猫「占い」！―未来とは何か？―｜リアクション

猫「占い」！―未来とは何か？―

「よ、よろしくお願いします」

　綾辻綾花は噂の占い師Ｎの前に座ると、緊張した面持ちで言った。
　鼓動の高鳴りを感じつつ、正面のＮを眺める。
　深いフードと濃い色のベールに隠れてその顔は見えない。

「それでは、何を占いましょう？」

　問いかける声も中性的で、女性とも男性とも判別がつかない。
　そのことが、どこか綾辻を非日常の空間にいるように意識させた。

「将来本に関わる仕事に就きたいんですけど、まだ具体的な目標が見つからなくて。アドバイスをいただけたらと思ってます」
「分かりました。では、この中からお好きな一枚を取って下さい」

　Ｎはカードの束を差し出してきた。
　綾辻が見ているのはカードの裏面だが、可愛らしい猫の絵柄が描かれている。
　カードの猫がこちらに向かって微笑んでいるようで、綾辻は少し肩の力が抜けた。

　一枚のカードを抜き取ると、それをＮに渡す。
　Ｎはカードを場に表返すと、少しだけ考え込んだようだった。

「どうですか？」
「そうですね……まず、あなたを猫に例えると、ベンガルですね」

　ヤマネコの血を引くベンガルは、ヒョウに似た模様が特徴の猫種である。

「ベンガルタイプのあなたは、どちらかというと大人しいタイプなのではないでしょうか？」

　どうだろう。
　自分では結構前向きで、悩んでも引きずらない性格かなと思っているけれど、活発かと言われれば違うかもしれない。
　綾辻はひとまず、判断を保留した。
　その様子を見て、Ｎはくすりと少し笑ったようだった。

「将来のお仕事ですが、自ら創造するより、人の指示や規則に従って行動しているほうが安心できるでしょうね。そういう意味では、司書や書店員などは向いているお仕事ではないかと思います」

　綾辻の表情が明るくなる。

「いずれにしても、将来の仕事に関しては見通しは明るいですよ。ベンガルの視界のようによく開けています」
「そう……ですか」

　占いを信じない訳ではない。
　もしそうなら端から占ってもらおうなどとは考えない。
　でも、綾辻はまだ漠然とした不安を覚えていた。　

「ベンガルは体格のしっかりした猫なので一見大らかにみられがちですが、その内面は繊細なんです。丁度、将来に不安を覚える貴方のように」

　踏み込まれて、綾辻はどきりとした。

「でも、心配は杞憂のようですね。将来への不安を抱えるのはもっともなことですが、落ち着いて考えてみれば、それほど具体的な脅威や不確定要素がある訳ではないと気付けるはず」

　言われて、そうかもしれない、と綾辻は思った。
　将来への漠然とした不安――それは漠然としているから不安なのであって、具体的にこれが不安というものがあった訳ではないような気がしてくる。
　少しずつ気分が晴れていくようだった。

　司書さんかぁ……と綾辻はふと考える。
　脳裏に好きなあの人が浮かび、一人赤面する。

「おや？　恋愛占いも必要ですか？」
「な、なんでもありませんっ」

　と、言いつつも、綾辻は恋愛に効果のあるグッズはないかとＮに尋ねた。
　Ｎはベンガル猫がディフォルメされたガラス製のチャームを勧め、綾辻はその可愛いらしさに惹かれて購入した。

「ありがとうございました！」
「また来てくださいね」

　帰り道、綾辻の足取りは随分軽くなっていたという。

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