星ヶ丘寮のある一日｜リアクション

星ヶ丘寮のある一日

☆天の庭

「家主の許可は取られているから、こちらも見学させてもらおう」
　そう言って使用人に鍵を開けさせ、月詠がとある家に上がりこむ。
　修は誰の家かすぐ気づいたが、黙っていた。
「え、ここは……」
　黒崎教頭は地図と見比べてけげんな顔をしたが、黙って見学させてもらうことにしたようだ。
　新入生たちも後に続く。
　何を隠そう、そこは月詠自身の家だった。
　家主本人だもの、許可に間違いはない。

　リビング、アトリエこと私室、資料室、ルーフバルコニー。
　資料室はこれまでの制作物をギャラリーとして公開している。
　アトリエでは制作途中の、美女と野獣をイメージした木製フィギュアと手作りアニマルぬいぐるみ一団が歓迎してくれた。
　新入生たちは歓声をあげた。
「可愛い！　触ってみたいわ。買えないかしら？」
　一人の新入生がぬいぐるみを気に入ったようだ。
「残念ながら売り物ではないよ……と、家主が言っていた」
　しれっと言う月詠に、新入生は残念そうな顔をした。
「だが家主に伝えておこう。縁があれば、何か作ってくれるかもしれない」
「本当！？」
　嬉しそうな新入生の顔を、月詠は覚えておくことにした。　
　
　ルーフバルコニーは海を一望できる優雅な庭となっている。
　新入生たちは感嘆の声をあげた。
（芸術科に興味ある学生へ、自分のアトリエの理想形を想起させる目的で見てもらったが、狙いは達成できたようだ）
　そう思いながら月詠は、教頭の隣に立ち、つぶやいた。
「豪華な設備と待遇は、それはとれる選択が幅広いという事。寮生へあらゆる自由を与える。
　何も悪いことはありません」
「なるほど。ありがとう」
　黒崎教頭は頷いた。
　

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