新学年のその前に｜リアクション

新学年のその前に

【駄菓子のある風景（佐藤瀬莉とトワ・E・ライトフェロゥの場合）】

　同じ頃、佐藤瀬莉さんは、旧市街の時計屋さんを訪れていました。
　参道商店街にあるその時計屋で、懐中時計などをぼんやり眺めているのが、最近の瀬莉さんの楽しみでした。
（来年はあたしも卒業式で送り出される側になるのかー。なんだかピンと来ないなー）
　チクタクと時を刻む針を眺めていると、そこはかとなくこの世の無常を感じます。
　そうして、時計屋さんで、穏やかなひとときを過ごした瀬莉さんは、その帰り道にふと駄菓子屋さんに寄ろうと思い立ちます。
　そして、その店先で、瀬莉さんは真剣な表情で悩み事をしている桃井かんなさんの姿を発見しました。
「ねぇ、どうかしたの？」
「麩菓子とかわゆるウエハース、どちらを買えばいいか、悩んでるのよ」
　瀬莉さんの問いに、かんなさんは眉間に皺を寄せたままそう答えます。
「……両方買えばいいんじゃない？」
「お金持ちの発想！？」
　瀬莉さんが何気なく口にした言葉に、かんなさんはびっくりしたようでした。
「……うーん。それじゃあ目を瞑って、適当に掴んだお菓子を買うっていうのはどう？」
「！？」
　瀬莉さんが適当かつ無責任に言い放った言葉に、かんなさんは天啓を得たような表情をするのでした。

＊　＊　＊

　さらに同じ頃、トワ・E・ライトフェロゥさんもまた旧市街の参道商店街をぶらりと歩いていました。
「ネコデンゴトゴトさくらみちー。Oh!　こんなところに『だがしや』があるマス！」
　通りががりに、『きらく』という駄菓子屋さんを見かけたトワさんは、休憩もかねて、店の中に入ってみることにしました。
「んん？　そこの二人、なにしてるデスかー？」
　と、そこで、トワさんは何やら真剣な表情で何かを話し合っているかんなさんと瀬莉さんの姿を発見して、興味津々に声をかけてみます。
「この子、どっちのお菓子を買えばいいか悩んでるんだって」
「oh!　そういうときは両方買えばいいと思うマス」
「お金持ちの発想再び！？」
　またもかんなさんは驚きの表情を浮かべます。二人のお金持ちを前に、もはやかんなさんはクールを装う余裕はありませんでした。
「だから、私は目を瞑って適当に取ればって言ったんだけど――」
「――それで変なの当たったらいやじゃん」
　瀬莉さんの提案に、かんなさんは少しだけ不安な様子。
（うーん。だったら、店ごと買えばいいと思うマスけど、それを言うほどトワは子供じゃないです。なにせカンナよりトワの方がお姉さんデスから）
　トワさんもまた一つ上の学年になるにあたり、少しお姉さんぶりたい年頃の様子。
　同い年の子供に比べ、やや幼く見えるトワさんの容姿が、彼女に余計にそうさせるのかもしれません。
　そこで、トワさんの頭にピコンと名案が浮かびました。
「だったら、こうすればいいと思うデス！　ここで会ったが百年目！　トワと出会った不幸を呪うといいのデス！」
「「えっ……？」」
　にやりと微笑んで、不穏なワードを並べるトワさんに、瀬莉さんとかんなさんは目を大きく瞠り、互いの顔を見あわせるのでした。

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