新学年のその前に｜リアクション

新学年のその前に

【駄菓子のある風景（曖浜瑠樹の場合）】

　寝子島小学校の卒業式は、つつがなく終了しました。
　今年三年生で、来年から四年生になる曖浜瑠樹くんは、卒業式を終えて、散歩などしていた道中に、ふと駄菓子屋に寄りたくなりました。
「ちょっとお腹が空いたんだよねぇ……あ、桃井さんだぁ」
　瑠樹くんは、ふらりと立ち寄った駄菓子屋さん――『きらく』の店内で、同じクラスの女の子である桃井かんなさんに出会いました。
「あ、曖浜じゃん。お菓子買いにきたの？」
「うん、そうだよぉ。桃井さんも何か買いにきたのぉ？」
　瑠樹くんの問いかけに、桃井さんはこくりと頷いてからうーんと難しい顔をします。
「でも、たくさんありすぎて何を買えばいいのかわからないのよね……」
「そうなんだぁ。オレは何を買おうかねぇ――」
　瑠樹くんもまた、たくさんのお菓子が並ぶ店の中を改めて見まわしました。
「あ、ゆるキャラチップスに新しいのが出てるよぉ」
「……なにそれ？」
　ぱぁっと顔を明るくする瑠樹くんに、かんなさんが怪訝そうな表情でそう訊ねます。
「これ？　ポテチのなかに、色んなゆるキャラのカードが一枚入ってるんだぁ。サンマさんとか、マンボウくんとか」
「……ふーん、そんなのが好きなんだ？　やっぱり男子ってガキね」
　ふぅっとかんなさんは溜息を吐きます。悪意があるわけでなく、彼女にとってこれがクールなのです。
「そうかねぇ？」
　瑠樹くんは特に気にする様子もなく、新作の味を確認します。
「今回は……サンマ味かぁ。サンマさんが出てきやすいのかもねぇ～」
「サンマ味……だと……？」
　かんなさんは愕然とした様子でしたが、瑠樹くんはやはり気にした様子もありませんでした。きっと彼はマンボウ味と書いてあっても同じ反応をするでしょう。
「あ、かわゆるスティックウエハースとかもあるよぉ。手が汚れにくいお菓子がいいなら、これなんかどうかなぁ？」
　可愛いゆるキャラカードと三本のスティック型ウエハースが入ってるんだよぉ、と瑠樹くんは、かんなさんにウエハースチョコをすすめます。
「どんだけゆるキャラ好きなのよ……？」
　と、かんなさんは呆れ顔でしたが、瑠樹くんは悩んだ末に、かわゆるウエハースを買うことにしました。
「桃井さんも一つどぉ？」
「……いいの？」
　瑠樹くんがウエハースを分けてあげると、桃井さんは素直にそれを受け取りました。
「四月からはオレ達も四年生だねぇ。楽しみだなぁ。桃井さんは何か楽しみなことかあるかなぁ？」
「……私？　うーん、別にないかな。学年が一つ上がるだけだし」
「クールだねぇ」
　瑠樹くんが言うと、かんなさんは満更でもなさそうに笑いました。
　それから、『そもそもウエハースとは何か？』という哲学的な話題でひとしきり盛り上がり、瑠樹くんは駄菓子屋さんを後にします。
「一緒に過ごせて楽しかったよぉ！　また会おうなぁ！」
　かんなさんに手を振り、瑠樹くんは今日も元気におうちに帰っていくのでした。

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