キミの成長試験｜リアクション

キミの成長試験

　普段顔を合わせていない家族。
　───響タルトの場合はどうだろうか。

「久しぶり～、卒業おめでとう♪　どう、　美　形　の　彼　氏　できた？」

　タルトの久々のご挨拶を聞き、嫌な顔をしたのは弟の蒼留人。
　蒼留人は今年の春本土の中学を卒業し、今年の4月から寝子高に通う。後輩でもある弟は、タルトのBL好きが嫌で理解はない。知っててからかう確信犯。

「相変わらず成長しないな。お前がそんななら、俺はこの寮じゃ暮らせない」
「えー、失礼だな、僕だって成長してるよ！　ソルトは頭固いから僕のサポートなしでここでやってくの大変だよ？」

　それはある意味正解だ。
　姉を差し置いて星ヶ丘寮に住むなどありえないし、猫鳴館は蒼留人にとって桜花寮より過酷……選択肢は一つしかない。

「なら、成長した証拠を見せてみろ」
「見せる……？」

　蒼留人は成長したなら抵抗はないだろうと言いたげにタルトを見た。
　これは、嫌だと言ってはいけない流れ。
　姉は弟のテストを受けて立つ事にした。

「まず、料理だ。寮暮らしだからと言って疎かにしているかどうか見極めさせてもらう」
「家にいたときは料理しなかったとは言え、家庭科の授業は受けてるよ」

　部屋は相部屋であるため、蒼留人のチェックは入らないらしい。
　それ以外は信憑性がないみたいだけど───

「〆切前だと疎かになっている可能性もある」
（嫌いだと逆にチェックがマメになるってあるある……）

　タルトは口に出さず、蒼留人と買い物へ。
　蒼留人の好み自体はちゃんと知っているし、冒険せず手堅いものを作れば、それなりにいけるだろう。

「相部屋なら部屋は酷くないだろうな」
「流石にそこは」

　※ちょうど、同時刻一般的には大惨事の部屋で蘭月がダメ出しされまくりで清掃作業に勤しんでいるが、タルトはその事実を知らない。

「あまり迷惑かけるな」
「失礼だなー、もー」

　タルトは呆れながらも買い物カゴの中にキャベツをいれた。
　チキンライスに洋風のかき玉汁、コールスローサラダを作るつもりで、レシピはスマホで確認済みだ。

（問題は食べた後……）

　料理のテストはあくまで日常の生活を疎かにしているかどうかのテスト。本番は料理のテストの後だ。
　そう───イラスト。
　普通なら、料理はともかくイラストは楽勝と言える。でも、凄く嫌な予感がする。

「料理は合格としておこう。思ったより普通だった」

　失礼な、と返すよりも早く、蒼留人はイラストのテストのお題を告げる。
　お題『男子2人をBLっぽくなく描く』───タルトの嫌な予感が最悪の形で当たった。

（え、無理）

　脂汗が背中を走る。
　だって、男子2人……見つめ合えば、運命の恋。嫌い合っている？　それはツンデレ。戦っている？　敵同士に別れた恋人同士が心を確かめ合ってる。男2人、愛が芽生えない事なんてある？　いや、ない。BLなしアリエナイ。

（ハッ！）

　タルトは閃いて、スケッチブックに猛然と描く。
　描いたのは、赤子を抱く父親のイラスト。

「これならBLじゃなく親子愛だよ！」
「何でもかんでもBLにしないみたいなのは認める。が、俺に求めるな」

　けれど、タルトは言わなかった事がある。

（亡き親友の息子を抱くお父さんが、やがて血の繋がらない息子を愛してしまう、それもBL……）

　不治の病だから、こればかりは仕方ない。
　けれど、テストには合格したから問題は何処にもない。そういう事にしよう。

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