キミの成長試験｜リアクション

キミの成長試験

　日頃何をしているか。
　普段顔を合わせていれば何かの機会でもなければ意識しにくい。
　けれど、普段顔を合わせていない場合、顔を合わせるそのときが「何かの機会」で───

「何時頃帰ってくるだろ」
「横浜までは高速バス使うらしいから……渋滞してない限りはそろそろかしら」

　花厳望春が時計を見て呟くと、一番上の冬ねぇが掃除の手を止めた。
　今日は海外に長期出張している両親が久しぶりに我が家へ帰ってくる……ということで、望春と三人の姉たちで大掃除真っ最中。
　望春は冬ねぇとリビング担当で、秋ねぇがお風呂場、夏ねぇがキッチン周りを担当している。

「普段よりも奇麗にしておかないと」
「うん」

　望春は掃除機のノズル交換をしながら、冬ねぇに頷き一つ。
　用途に応じたノズルを使わないと隅々まで奇麗にはならない。特に隅は丸く掃いてしまってるから念入りにしないと隅は汚い、なんて言われてしまうだろうし。

「奇麗に片付くと気持ちいいしね」
「望春ー、父さんと母さん、あとちょっとで帰ってくるから、キャベツ買ってきて。足りないから」

　冬ねぇと話していると、夏ねぇがキッチンから用事を言いつけてくる。
　望春は理事長に似た（望春としては逆のノリ）姉たちに変に逆らわないほうがいいと知っているので、薄いコートを羽織って表に出た。
　外は、だいぶ春の装い。桜が咲くのももうじきだろう。

（……）

　望春はある事を思い立ち、買い物へと出かけていく。

◆◆◆◆　　　　◆◆◆◆

（あ、あれ新作）

　買い物を終えた望春は、見知った顔が春限定のアイスを手にレジへ向かっているのを見かけた。普段なら、寄ってみようかと思うのだけど、今は帰宅優先と家路を急ぐ。
　帰宅して、程なく、両親の声が玄関に響く。

「おかえり！」
「ただいま」

　全員で声を揃えれば、両親が嬉しそうに笑う。
　ふと、望春はリビングのテーブルに広がってるそれを見た。……俗に言う薄い本（not商業コミック）好奇心で手にしてはいけないアイテム。

（秋姉ぇと冬ねぇはともかく、父さんと母さんも気にしない……。……俺がおかしいのかな……）

　悩んでても仕方ないから、冬姉ぇが荷物運ぶの手伝ったりしている間に秋姉ぇと夏姉ぇの助力を得て料理開始。

「ご飯は炊いておいてあげる」
「望春、肉じゃがの野菜、切り終わったわよ」
「ありがと、秋姉ぇ。夏姉ぇ、ちょっとお味噌汁見てて」
「人使い荒い」
「ほとんどさぼってるよ」
「後で高くつくわよ」

　料理しながらも望春は別の作業も怠らない。
　「此れ」は自分だけでやりたいと思うし。
　そして───

「今日は肉じゃがと、春キャベツと筍のお味噌汁、それと───」
「和食なんて久しぶりだな」
「本当。向こうでも日本食買えるけど、やっぱり日本で食べたいわよね」

　望春の説明に両親が喜んで食べる。
　いつもより美味しくできた、と思っていたけど、やはり両親の一言を聞いてほっとした。

「あと、デザート」

　望春が食べ終わった両親に出したのは、桜の花びらの形をした焼印がついたどら焼きだ。

「針金でも作れるから。桜まだ咲いてないし」

　望春は洋菓子のほうが得意だ。けれど、今日は和菓子のほうがいい。それと、桜を見せたい……そう思って作った。
　驚きに目を瞬かせていた両親が、どら焼きを食べて嬉しそうに笑う。

「ありがとう」
「今まで食べたどら焼きの中でも一番ね」
「それに一足早く桜も見られた」

　中学の頃から成長できているか。
　望春の答えは、両親のこの言葉が全て教えてくれた。

　来年は今日よりももっと成長できればいいな───

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