キミの成長試験｜リアクション

キミの成長試験

　柔らかな風が頬を撫でる。
　肌寒さもなく、春の息吹を感じさせ、思う事は一つ。
　トワ・E・ライトフェロゥ、10歳……春の意味は判ってた。

「しんがっきーで5年生ーデスカラー」

　トワは仕事道具の手入れをしていた夜海霧楓へその意気込みを語った。

「トワも５年生？らしくなっているか、テストするマス！　カエデ、testするマス！」
「テストっていきなり言われても……」
「もうすぐおひる―デスカラ、トワがー lunch を買ってくるマス！」

　トワのテスト提案に楓の手が止まった。
　楓に気付いてないトワは楓へメモ帳を差し出し、本日の青空の様な瞳を輝かせている。本気で昼食を買ってくるつもりなのだろう。それが判るだけに楓は何を言っているんだとばかりにトワを見る。
　けれど、トワは気付いてない。

「先日みたいにーお休みしてるとキケンがアブナイらしいデスカラ―、Comeback My House！　いえに―帰るのも―トワにー任せるデス！」
「お使いクエストなら却下だ方向音痴姫」

　楓が却下を申し渡す。
　TV番組と違い、お使いクエストにはスタッフが同行している訳ではない。同行してどうにかなるかどうかについてはこの際脇に置く。
　昼食が夕食になる上食事前の長時間準備運動が発生すると判っているお使いクエストをする必要がどこにあるんだ。

「Butler and maid……しつじもーめいどーも居なくてもートワもできるデス！　カエデにも──―それを教えるマス！」
「初めて披露するみたいに言ってるが、そもそも初めてじゃねぇし。もう何度も失敗してるのに、その『今回は大丈夫』みたいな謎の自信は何だ」

　楓は食い下がるトワを一瞥、トワの買い物クエスト失敗の歴史を並べ始める。
　客観的に事実だけを並べる辺り、相手が雇い主の娘であっても色々容赦がない。

「ぐぬぬぬぬ」
「此処から家まで帰るのに道を外れたら即失敗でいいならテストしてやる」

　トワ、完全敗北。
　突拍子もないあほひめは、何でテストしてくれなんて言い出したのだろう───楓がそう思っていたら、その『あほひめ』ことトワがその理由を言い出した。

「トワは、もうすぐ5年生になるデスー、カラー、もっと大人のlady……レディになるデス、カエデの大変へらすの、デス」
（俺の負担を軽減したかったのか）

　学年も一個上に上がって、4年生トワと違うと見せたかったのか。行動まで伴えるのかという素朴な疑問が頭を掠めたが、心がけそのものは立派だ。そう考えたなら、楓も代案提示をせざるを得ない。
　トワに座れと椅子を指し示した後、メモ帳より大きめのノートをトワの前に広げた。

「お前にはコミュニケーションのテストの方が先だ」

　トワの交流は体当たりだ。勢いで突撃する恐るべき行動力の持ち主。今はいい方向に動いていても、頻度を減らさなければ痛い目を見る事も十分有り得る。体当たりの根元の一つに言葉がある。肉体言語以外の言語も使ってもらわないと困るのだから、代案としては一つしかない。

「communication test？」
「英語ドイツ語に問題ないのは知ってる……が、ここは日本なんでな。大事なのは日本語だ」

　トワは、楓のテストの内容を理解した。
　他に何があんだよ───顔にはっきりトワの理解への答えを浮かばせた楓は、事も無げに言い放つ。

「とりあえず自由に訳してみろ」

　コミュニケーションテスト開始───

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