キミの成長試験｜リアクション

キミの成長試験

『日曜日は祝日なので次の日が振替（ふりかえ）で休日になります』
『キャットロードの大通りにある大衆食堂「大宮」の大サービスは11時から20時まで』
　日本語に直すと、模範解答はこうしたものになる問題は、英語で出題された。
　楓がノートへ書き込んだ問題文を見、トワが考え始める。

「にち……にちは……いわうにちデスカラ……」

　トワが正解前に単語の意味をノートに書いていく。
　祝う日（イワウニチ）じゃなくて、祝う日（イワウヒ）か祝日（シュクジツ）……と、楓は助言したりしない。これはテストなのだから。

（この手の同じ言葉や漢字でも意味が違うんで他所の国からすると判り辛いらしい）

　日本語程多彩な言語もそうない。
　英語であるなら、「I」と書けば済むものを、「私」だの「僕」だのと一人称だけでバリエーションがあるし、二人称も同じ。漢字も同音異義語なんてあるし、日本人ですら文章にするときちんと区別できない者もいる。他の国に生まれ育った者は、もっと感じるだろう。
　だから、楓はそこをテストしたのだけど。

「次のニチはーふーりーかーえーやすみにちになるマス。Sundayがおやすみデス？ next holiday……デスカネー」
（ぶっちゃけ失敗前提ってのは言わないが）

　トワが集中しているのを、ただ見守るだけ。
　どんな答えが返ってくるのやら、と肩を竦めたくなる呟きでも、楓は口にはしない。
　テストを通じ、ある事に気付けば、それが及第点だ。
　一問目の答えを書き記したらしいトワの呟きは、二問目に移っていた。

「Cat load のーだいどおりにある……だい……だい……のだいさーびすは、11カラー20マデー」

　トワは口に出し、唸る。
　どう日本語にすればいいのか判らない単語だ。
　小学校の授業でも聞いた事がない。

「ぬぬぬぬ」
（予想通りの箇所で引っ掛かった）

　楓はやはり口出しせず、湯気を出す勢いのトワを見守るのみ。
　この先、トワがどう動くか───楓は実の所、真に見たい箇所は其処であり、ある種テストの本命だ。
　かなり長い間唸っていたトワは、やがて楓を見た。

「……give up！　するマス……」

　テスト合格できなかった、と言わんばかりの顔だ。

「カエデ、not understand、わかるません、デス」
「及第点だな」
「へ？」

　楓が目を瞬かせるトワの向かい側へ腰を下ろした。

「まあ正直慣れ、の部分が多いんだが……」

　楓はトワへそう話しながら、ノートに書き記したトワの字へ読みを書き記す。英語で読みの注意点を入れたのは、このテストの意味も持たせるため。本当のテストの及第点だけでよしとするつもりはない。
　日常的に使うものは自然と慣れ親しんで身に着いていくだろうけど、滅多に使わない様な漢字、薔薇だったり櫻だったりは機会がないと覚えにくい。日本人ですらそうなのだから、トワは日本人よりも意識する必要はある。
　けれど、意識できるかどうかは、自分がどれだけ「判ってなくて」「解ってない」かを知らないと難しい。

「ふーりーかーえーみたいに、ふりがなしょもうしたデス」
「振り替えは他所じゃ馴染みないからつけただけだ」
「ぐぬぬ」

　答えを教わったトワ、希望を却下されて唸る。

「何でも無理に解決しようとせず、「判ってなくて」「解ってなかった」のを「解った」から及第点。解らなければ人に聞けばいい」

　最初にコミュニケーションのテストと言った通りで、解ける解けないは問題ではなかった。
　けれど、解けなかったのは悔しいもので───

「one more!　トワも成長してるデスカラー次のテストには合格するデスヨー！」
「それはまたの機会。こういうテストは何度も連続してやらない」

　次のテストまで、今日より成長できるかどうか。
　それは、トワ次第───

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