キミの成長試験｜リアクション

キミの成長試験

　トワが日本語のコミュニケーションをテストされている頃、トワにとっては問題ない英語のテストを受けようとしている者がいた。

「カーキー、また大きくなったな。あ、カール、まだ洗い終わってない」

　八神修の声が響く風呂場は現在賑やかな入浴タイム。
　カーキーの成長を思う間もなく、カールが風呂場から出ようとし、修は慌てて止めた。
　けれど、カールがぶるっと体を震わせ、倣う様にカーキーがぶるりと体を震わせる。

「わぁっ！」
「わふ」

　修が思わず声を上げると、まだのんびり浴室にいたカエサルが声を上げた。
　顔を向けると、タオルを手にした風間が立っている。

「これは見事な男前」
「……手伝ってくれ」

　現在に被害は修のシャツと短パンだけ。
　幸か不幸か、カーキーは柴犬、カールはシェパードと短毛種……続かないでくれたカエサル（長毛種のラブラドール）のお陰でまだ可愛い範囲。今ならまだ間に合う。それには風間のタオルが必要不可欠だ。
　風間からタオルを受け取った修は、カエサルを見る。

「カエサル、少し待っててくれ」
「わふん」

　修からの待ての合図と理解したらしいカエサルはお行儀良く座る。
　既に風間がカーキーをタオルで拭き始め、タオルが心地いいのか、カーキーがはしゃいでいた。
　それでは、カールも体を拭こう。

「終わったら、ドライヤーも頼む。俺はカエサルに待っててもらってるから」
「了解」

　今家にいるのは自分たちだけで、咎める者はいない。
　風間の立場は修の運転手兼護衛、将来の腹心、となると、表ではその立場に合わせた言葉遣いと振る舞いが求められる。けれど、風間を兄の様に慕う修はその必要がない場では表の立場抜きにした関係のままを望み、風間も様付けで呼ばず、普通に話している。

「あ、そうそう。来週試験会場まで送ってくれ。会場が本土で最寄り駅から少し離れてる」
「来週……試験、何だったか」
「いや、今回はL&R」

　修が来週受ける試験は、英語能力を合否ではなくスコアで評価するもので、日本以外の国でも行われている国際水準のもので種類も多彩だ。修は「Listening＆Reading（L&R）」、聴く力、読む力を評価するテストを受ける。

「準備は？」
「まぁまぁ」

　すると、風間はこう言った。

「模擬テストするか」
「え」

　風間は準備してくると立ち去っていく。
　修は三頭の視線に気付いた。

「気付いたんだろうな」

　問題ない、と言い切れなかったのは、「Listening」に若干不安を残していたから。
　明朗な性格だし、見た目体育会系の風間は、実はかなりデキルのだ。

「健闘を祈っててくれ」

　着替えた修が彼らの頭を撫で、模擬テスト会場入りすると、風間はしっかり準備を整えていた。
　制限時間は実際の試験と同じで、出題は風間が行う。

（ほぼ正解できると思うが……）

　風間の流暢な英語を聴きながら写真を見る。家から登校する写真で、余裕を持って家を出ているときなのに風間は重役登校の説明をしている。実際と違う。いや、説明全部実際と違う。

（先入観が……）

　応答問題も家を題材にそうしたもので、会話問題に至っては───

「答えが、実際と違う。その問題はずるいぞ」
「でも、引っかからなかっただろ？」

　問題終了後、修が頬を膨らませると、風間はおかしそうに笑う。

「試験まで家の中では英会話限定にしよう。皆英語使えるし、問題ない」
「機会を自分で作る、という事か」

　修も風間の提案に納得し、本番まではそれでいこうと決めた。

「お前たちも英語で頼むよ」

　様子を見に来た三頭がワンと返事をすると、修はぷっと吹き出した。

「そうだな、Oneだな」

　早速英語と笑う修は、来週本当の試験を受けに行く。

このページにイラストを設定する