【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

　ホワイトデーが紡ぎ出す喜びの連鎖を知らず、自分のどうにもならない気持ちの沼に、とぷんと沈み込んでいる少女がいた。

（ホワイトデーかぁ…………バレンタインのお返しをする日……）
　フィーナ・シレンツィオ。豊かな銀髪と抜けるような白い肌を持っているのに口を開けばあら残念なこのお嬢様は、今物思いに耽っており、その姿はまさに物語に出てくる深窓の令嬢そのものであった。
（お返し……お返しかぁ…………）
　柔らかい金色の左目と深い紅色の右目に憂いの色を浮かべ、令嬢は教室の片隅でほうっと溜息をつく。そしてそんな自分に気付くとハッと顔を上げ、ブンブンと長い髪を振り回して首を振った。
（……いや、別にお返し期待して渡したわけじゃねえし、そもそもお返しがあったとしてスキとかそういうアレでもないしっ！）
　ムン！　と拳を握り、１人唇を引き締めて頷くフィーナ。しかしその伸びた背筋がまたふにゃりと崩れ、フィーナは机に突っ伏した。
（……って誰に言い訳してんだ私……）
　誰に言い訳してるんでしょう。取りあえず１人百面相をクラスのみんなが面白そうに見守っていますよ、フィーナさん。

　ホワイトデーの本日、お嬢様の気持ちはとっても揺れ動いていた。その種はバレンタインに蒔かれていたのだが………いや、実はもっともっと前から、確実に彼女の心の中で芽を出していたのかもしれない。バレンタインは直接的なきっかけに過ぎなかったのだ、きっと。
　バレンタイン。フィーナは手作りのチョコファッジを渡していた。
　フィーナが、手作り。それはもう屋敷中のメイドの瞳が睫バサバサの白目になり、額に青の縦線を浮かべながら小指を立てて驚いたものだった。
　それくらい料理どころか家事全般をしないお嬢様がチョコを手作りしたのだ。あのいつも元気でふわふわにこにこしている男の子のために。
　ここまで言ったら幼稚園児だって、
「あー、フィーナちゃんはその子のことが大好きなんだね！」
と言うであろう。しかし、この残念お嬢様はその事に気付かなかったのだ。チョコを渡し終わり、１人になってようやく緊張が解けたその時まで。
（そうなんだ……いつも世話になってるお返しってことで渡したわけだから、お返しを期待する方がおかしいってわけで……）
　ループする思考の沼に、フィーナはずぶずぶとはまっていく。
（まぁ好意云々は別にしても、もしお返しがあるようなら迷惑ではなかったってことで、安心も出来るけども……、いや、そもそも義理って思われてる可能性も……）
　渡す時に『義理』とも『本命』とも言わなかったのが仇になっている。いやでも本人も渡すまで自分の気持ちに気付かなかったのだから、それはおあいこだろう。そして困った事に、こういう乙女の悩みは古今東西、結局想い人本人のリアクションがないと解決できないのだ。
（ちょっと様子を見に行ってみようか……）
　机に突っ伏していたフィーナがふと顔を上げ、教室の扉を見る。しかしすぐにその眉が困ったように下がった。
（いや、そんなねだるようなみっともないまねなんてできねぇし……）
　右に左に上に下に。顔も心もあっちゃこっちゃに動きすぎて、フィーナは机に座っているだけなのに、何だかドッと疲れてしまう。

（はぁ、考えがまとまらねえ……。私こんなにポンコツだったっけか？）
　頬杖をつき、空に流れる雲をそのうつろな瞳に映すフィーナ。
　ポンコツなお嬢様は、どうにもならない想いに悩む、恋する乙女そのものだった。