【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド｜リアクション

【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド

● 寝子ヶ浜海浜公園～アネモネとアクアマリン

　明りの灯った真っ白なバルーンの前にしゃがみ込み、結城日和は神嶋征一郎を見上げる。
「今日はねこれやりたかったんだーライトバルーン」
　夜空に浮かべたら綺麗だろうねぇ、と日和はひとりごちる。
「ね、一緒に飛ばしてみない？　今日の思い出に！」
　構わない、と承諾して、征一郎は日和が抱えるバルーンをともに支えるように手を回した。
　自然と触れる日和の手。気づき、けれど、表情は変えずにバルーンを高みへ持ち上げる。
「放すよー。それっ」
　ふたりは同時に手を離した。
　バルーンは昼間見た海月のようにゆっくりと、昏い夜空へ浮かんでゆく。
　ふたりは儚く消えゆく光を、暫く黙って見届けた。

　イベント後、日和と征一郎は公園を散歩した。砂浜の際、手すりに凭れ掛かり、海を見る。
　まだ冷たい３月の夜の海風に、日和は乱れる髪を抑える。
「はぁー……一日幸せだったなぁ。神嶋君と一緒にあちこちいけて楽しかった」
　日和のまっすぐな言葉が征一郎の耳朶を打つ。
「ふふ、今日の私はどうだったかな。素敵な私でいられたら素敵な私に見えてたら嬉しいな」
「悪くなかった」
　征一郎は答え、小ぶりの包みを日和に手渡す。
「バレンタインの時……も礼を言う。その返しだ、受け取れ」
「えっ。いいの？」
　日和は受け取り、征一郎の顔を何度も確認してから包みを開けた。
　包みの中身は、桜の香りのハンドクリーム。
　もう一度彼を見上げると、征一郎は淡々と告げる。
「指の手入れに。ヴァイオリンをやるなら、手は大事にする方がいい。それと」
　征一郎はもうひとつ、小さな箱を差し出した。
　バレンタインのお返しでないなら何だろう。日和は早鐘を打つ心臓を意識した。小箱を開ける。
「わ、素敵……イヤリング？」
「つけるか？」
「うん」
　征一郎は日和の髪を耳に掛け、銀の金具を止めてやる。手が冷たい、と日和は思った。
　やわらかい耳たぶを飾るは、桃色と白のアネモネと、透明感のあるアクアマリンの宝石の雫。
「誕生日おめでとう」
　耳元で、囁かれる。
　日和は目を瞠った。
「私の誕生日、知ってたの？」
「クラスで友人と話してるのを偶然聞いただけで、知ったのはつい最近だが、ついでだ。要らなかったら破棄しろ」
　日和は思わずくすりと笑った。
　ついで、とか、破棄、とか、なんて彼らしい拗ねた言葉選びだろう。
「大事にする」
　と日和は耳朶に触れた。
　熱い。先の彼の指先の冷たさを思い出すだに、さらに熱くなる。
　ディアナの風と名付けられたイヤリングが手の中で揺れる。
　白のアネモネは『真実』『期待』、桃色のアネモネは『待望』を意味すると花言葉は言う。アクアマリンは３月の誕生石で、月の女神ディアナの石とも言われるが――あるいは深海のような彼自身を象徴しているようにも思われた。
　繋がれたアネモネとアクアマリン。
　込められた想いと意味は――いまはまだ、敢えて解くまい。

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