【星幽塔】第一階層　南の沼の人食いワニ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　南の沼の人食いワニ

【南の沼のワニゲイツ】

　そうして、一行は深い沼を越えていく。
「わっ、きゃっ……。や、やっぱり葉っぱの上じゃ足場が悪いわね……」
　水上桜は、沼や泥が服に跳ねないように気にしつつ、少し危なっかしい足取りで蓮の葉の上を飛んでいく。
「……ワニさん、たくさんいるね。肉、足りるかなぁ……」
　恵御納夏朝は、想像以上に多いワニゲイツの数に圧倒されていた。
（……ごめんね。肉はこれだけしかないんだ……）
　これなら、他の荷物を削減してでも肉を増やすべきだったかと若干の後悔をしつつ、夏朝もワニゲイツに警戒しつつ慎重に蓮の葉を進む。
　彼女達の身のこなしは一般の女性と比しても、かなり軽い。
　他方、本来は芸術家タイプである旅鴉月詠と桜月の方は、そう楽々とはいかない。
「もともとこういったことは専門ではないわにからね。まあ何事も経験わに。月、手を貸そうか？」
　とはいえ、持ち前の飄々とした身軽さで、月詠はそれなりに上手く蓮を渡り、友人に手を貸そうとする気遣いと余裕を見せる。
「ありがとう、月詠さん。思ったよりも鎧が動きにくくてね。もともと運動も得意ではないし、助かるよ」
　差し出された手を取りつつ、桜月は友人の月詠がこの場にいてくれて良かったと思う。
　その後ろを、新田亮と日暮ねむるが周囲のワニに気を配りながらついていく。
「日暮、ワニゲイツの鱗――お前はどう攻略するつもりでいる？」
　蓮を葉を渡る道すがら、亮はふと気になってねむるにそう訊ねてみた。亮はあらゆる可能性を想定して、たくさんのアイテムを持ってきていたが、それに対してねむるはあまりにも軽装だったからだ。
「……うーん、作戦ってほどのもんじゃないけど、一応考えはあるよ？」
　成功するかどうかはわからないし、万が一、ワニが人語を理解し、それがデスゲイツに伝わる可能性も危惧してねむるは言葉を濁す。
「俺も一応策はある。上手くいくかはわからないけどな。そちらの作戦も上手く行くことを祈ってる」
「うん。新田くんもね」
　亮とねむるは寝子高のボクシング部の部活仲間でもある。互いの実力を良く理解しているからこそ、二人の間に余計な言葉は要らなかった。
　そうして、首尾良く湿原地帯をなかほどまで進んだ頃のことだった。
「――皆、気をつけてくれ。理由はわからないが、その先にゆっくりとだが複数のワニゲイツが集まってきている」
　少し焦ったような声で、空から降りてきた八神修が言った。
「えっ、それって私達の動きがバレてるってこと？」
　椿美咲紀が少し不安そうに首をかしげる。
　と、そのとき、二人の言葉を裏づけるように、雀になった御巫時子がチュンチュンと何かを伝えるように激しく鳴き声をあげた。
（大変。ワニさんがこっちを思いきり睨んでます）
　時子はそう言っているのだが、人間にはチュンチュンとしか聞こえない。それでも何か警告しているのだということはわかった。
　とはいえ、ここまで来て、大きく迂回はできなかった。
　やがて肉眼で確認できる距離に、濃緑色の鱗をまとったワニゲイツ達がハッキリとその姿を見せる。
「うわっ……。ど、どうする……。なんかあいつら待ち伏せしてるっぽいぞ？」
　沼と沼の間にあるぬかんだ大地の上で、三匹のワニゲイツがこちらを真っ直ぐ見つめていた。
　アカリの待ち伏せという言葉は、言い得て妙であっただろう。
　腹を空かせた彼らにとって、１０人の冒険者達は逃してはならない絶好の獲物であったのだ。
　そして、そんな三匹のワニ達はやがてゆっくりと互いの視線を合わせると、
「……みんな気をつけて。来るよっ！」
　盗人の光で鋭くされた勘で叫んだ夏朝の声が響くとほぼ同時に、凄まじい速度で冒険者達に襲い掛かってきた。

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