【星幽塔】第一階層　南の沼の人食いワニ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　南の沼の人食いワニ

【いと深き沼を越えて】

　アウストラリスの沼は深い。しかも、あまり綺麗ではない。
「あまり近づきたくないわね。服が汚れそう……。ショートカットしなきゃ駄目？」
　水上桜はやや引きつった表情で、沼の水を見つつ小さく呟いた。
「僕はショートカットしたいな。人食いじゃないワニさんとは、できれば戦いたくないけど……」
　恵御納夏朝は、ろっこんで軽量化して持ちこんだ生肉を手に真剣な表情で悩む。これを食べてもらっている間に一気に渡りきれればいいな、と夏朝は考えていたのだが。
「私はどちらでも一向に構わないわに。ワニと話し合い（？）で解決できるならよし、でも邪魔をするようなら容赦はしないわに」
　泰然とした口調に、何故か語尾に『わに』をつけて語るのは旅鴉月詠だ。月詠もまたろっこんで絵に封じた生肉や魚を大量に持ち込んでいる。容赦しないときのための炸裂イモも当然持ち込み済みだった。
「私もどちらでも構わないよ。ところで、月詠さん、その喋り方はどうしたんだい？」
　いつもと違う口調の月詠に、少し苦笑気味に訊いたのは桜月だった。
「そういう気分だったわに」
「なるほど」
　しれっと返す月詠に、特に突っ込みを入れる様子もなく納得する月。
「……ともかく俺もショートカットには賛成だ。餌の鶏肉なら俺も用意している」
　新田亮は、突っ込んでいいかどうか迷いつつ、話をルート選択に戻した。
「私も蓮の葉を渡ってみたいかも☆　落っこちそうになっても、星の力でなんとか支えられると思うし」
　白い翼を生やした杖を持つ、椿美咲紀も蓮の葉ルートを推した。
「星の力で、ロケットみたいに飛んでいきたいところだけど、さすがに火力が足りないかなぁ……」
　日暮ねむるは魔火の光を宿した指ぬきグローブをつけた手で頭をかきつつ、緊張感のない欠伸を漏らす。
　その後、なんやかんかやと議論をした結果、全員で協力して一気にショートカットする方向で話がまとまった。
「私は鳥さんに変身して、ワニが来たら鳴いてみなさんにすぐ鳴いてお知らせしますね」
　そう言って、御巫時子は雀に変身した。魔火を宿した扇子ごと鳥に変身する力はまさしくファンタジーだが、これは星の力ではなく彼女自身のろっこんの能力だ。
「俺もこのまま炎竜に乗って、空から行く。上から広く全体を見渡して、適宜皆をサポートするよ」
　ト・ゲトーゲには乗らず、城下町から騎士の光で炎竜に騎乗してやってきた八神修も翼をはためかせて空へと戻っていった。ちなみに美咲紀もト・ゲトーゲは使わずに修の炎竜で沼まで来ており、二人のために用意されたト・ゲトーゲは荷物運搬用として活用されている。
　まずは雀になった時子が先陣を切って飛び立った。
　そこに、夏朝、月詠、月、桜と女性陣が続き、その後ろを亮とねむるがついていく。女性陣が沼やワニに足を取られた際は、すぐに後ろから助けられるように。
「むー。やっぱワニはおっかないなー……。けど、このドラゴンキャベツがあれば……」
　最後に、来島アカリがやや気遅れしつつ、竜の肉と評されるほどの肉厚なキャベツを沼に投じながら、蓮を渡っていく。
　刹那、沼の水面に濃緑色のワニが現れたかと思うと、次の瞬間にはキャベツをバクリとくわえて水中に引きずりこんでいた。
　もしも、あのキャベツが自分だったらと思うとアカリは身震いを隠せない。
（お、おっかねー……！　俺、泳げないから、水の中に引きずりこまれたらアウトだもんなー。で、でも、ワニ肉欲しいし、頑張るぞっ……！）
　こっそり涙目になりつつ、健気にぎゅっと拳を握るアカリ（♂）は完全に美少女にしか見えなかったが、それはまったくの余談である。

このページにイラストを設定する