汝の足が示す先は｜リアクション

汝の足が示す先は

●迷子どころじゃないコチラ

　展望台から一気に、件の看板へ戻ってきた野菜原。

「おお？　なんだ結構単純な道だったんじゃん～☆」

　原因は自分にあることをもう器用に忘れている。
ってことはコッチの向きだなと看板の矢印方向を直し、さあやっと帰れるぜ！　と踏み出した先の足元、
このまま進んだらもしかしたら転んでいたであろう位置に、中くらいの石を発見。

「こんな所にあったらあっぶねーよな。……よっし、親切な俺！」

　ぽ～～～～い………ッ　ゴツン！

「に゛ぎゃ！？」

　石が放られた先の草の向こうから、予想外な声が上がったのに驚いた野菜原が、慌ててそちらへ駆けていく。
草を分け入った先に、大きなピンクのリボンが地面に落ちている……もとい一瞬の間の後、
それが同級生の鬼河内萌だと気付いた。

「鬼河内！？」
「あれ？　ユウくんも桜を見に来たの？」

　痛む頭部を抑えながら一度よろよろ立ち上がろうとするものの、力が入らず座り込む。
そこに、若干血のついた石が視界に入った。
萌、おもむろにそれを手に取ってしばし考えた後。

「誰だろ、石を投げるなんて酷いよね！」
「……や、えーと」
「こんなに血が出てるよっ。悪い人がいると思わない！？　ねえユウくん！」
「本当だな！　一体どこのどいつだ！」

　萌に全く悪気はない。大変正しい責め文句である。
そして全力で追い詰められた野菜原は、罪悪感によって素直な心がかくれんぼ。
ついすっとぼけて萌に続いてしまう、複雑なお年頃。

「怪我したなら、戻って手当した方がいいなっ」
「うう……桜見たかったのに……咲いてないなんて詐欺だよ～。ユウくん肩貸して～」
「お、おうっ」

　こっそり顔を覗かせる乙女心。
怪我してるし、これくらい甘えても良いよね！
負い目ゆえ逆らえない野菜原に支えてもらいながら、しかして二人が進む方向はロープウェイのある場所とは違う方向へ。
出血に多少なり動揺した萌の指示に従って道を行けば、看板直っていても関係なかった。
獣道のように細く暗くなる道、怪我のことを意識し出すと眩暈すら覚えるようになってきて。
萌の足から次第に力が無くなっていった。

「ちょ、大丈夫か！？」
「んー……駄目かも～。でも、ユウくんの腕の中で死ねるなら、ボク本望だよ……」
「何言ってんだ！　傷は浅いぞ！　死ぬな鬼河内！！」
「最期に、お願い聞いてもらえる？」
「最期なんて言うな！　なんだっ？」
「ボクの事、忘れないでね」
「忘れねーよ！」
「ホワイトデーも、忘れないでね」
「ああ！　約束する！」

　野菜原も大分動揺している。ちゃっかり計算された乙女心的誘導に全く気付かない。
萌は萌で、本当にボク死んじゃうのかなー……という心と、
ユウくんからお返しもらいたいな～……という心が、ドッキングした為の素の言動である。
どこぞの刑事ドラマのようなノリだが、本人たちは至って真剣な会話であった。
がささっ！
突如、そんな二人のすぐ脇の茂みが動いた。

「ユ、ユウくん、ボクを置いて逃げて……」
「ばか！！　そんな事できっか！！」

　まるでヒーロー・ヒロインなやり取りが続きながら、伊達に男の子ではない野菜原、
萌を守るように背中に隠し構える。
熊か？　猪か？

「あらあら～？　こんな所でどうしたのお？」

　先程まで一緒していた志筑かりんの顔がひょこっと覗けば、野菜原がホーッと脱力した。

「その、コイツが怪我して……」
「どれどれ見せてみて。……ああ、頭は大袈裟に出血するから、これくらいなら押さえておけば大丈夫よお」
「そ、そうなのかっ。詳しいんだな！」
「私もたまにやっちゃうからねえ」

　え、頭から流血を？　というツッコミを野菜原はそっと飲み込んだ。
ハンカチを取り出し、萌の頭部を押さえながらかりんはキョロッと辺りを見渡す。

「とはいえ、早くちゃんと消毒してあげたいけれどー……ここどこかしらあ」

　そういえば展望台方面とはぜんぜん違う方向から来なかったか……？
というツッコミを野菜原は再び飲み込（以下略）
幸いにしてこの後、鼻血から自力回復した涼太郎と、連れ立って下りてきた文緒が合流し
文緒の持つスマホにて無事全員下山したのであった。

　ちなみに。
交代のおんぶを華麗に申し出た涼太郎を、罪悪感と精一杯の男気から有難くも断って、
下山するまで野菜原が萌をずっとおぶったのであった。
萌の顔に血の気が戻りむしろ少し輝いて見えたのはきっと気のせいだろう。
なお、この翌日以降しばらく続いた筋肉痛との戦いで、野菜原がホワイトデーのことを覚えていたかどうかは、神のみぞ知る……――。

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