小学生の年度末｜リアクション

小学生の年度末

○点数より気になること

　そして、テストの結果が返ってきた。
　３年３組では、椎名あさひとミルカ・アハティアラが話をしている。
「あさひは算数は80点だったよー。前よりちょっとだけよかったよ！」
　ロングの黒髪を結っているあさひがのんびりと言う。
「わたしも今度のテストは算数の点がいつもよりよかったんですよ！　でも社会がちょっとむずかしかったです」
　銀髪のツインテール、青い大きな目のミルカがそれに答えた。
　あさひは言う。
「でも国語はあまりできなかったんだよねぇ……このときの登場人物の気持ちを答えなさい、ってむずかしいよねぇ？」
　漢字なら、大変だけどしっかり練習すれば書けるようになるけれど。
　なんとなく想像することはできるけど、本当はどんな気持ちか？　なんて本人しかわからないんじゃないだろうか。
「あさひちゃんは国語がたいへんだったんですね。うーん、たしかに、登場人物の気持ちを想像するのってわからないときありますよね！」
　ミルカはフィンランド生まれだが、小さな頃から寝子島で育ったので日本語は堪能だ。
　でも自分だって、同じ言葉を聞いても元気な時と気持ちが沈んでいるときで感じ方が違ったりするし。
　よく知らない登場人物の気持ちをあれこれ考えると、迷ってしまうことがある。

　そんな話をしていたら、ふとあさひは噂を思い出した。
「……そういえば、テストのけっかでクラス分けしてるって本当なのかなあ？」
「えっ、テストの結果でクラス分けするんです？　知りませんでした……！」
　ミルカが大きい目をさらに見開く。
「先生がくじ引きしてるって話もきくよねぇ……本当はどうやって決めてるんだろうねぇ……？　４年生になるのは楽しみだけど、クラスが分かれちゃうのやだなぁ……」
　テストの結果よりもそっちのほうが気になっちゃう、とあさひは思う。
「せっかくあさひちゃんやみんなと同じクラスなのに、別々になるかもしれないなんて……」
　ミルカが少しうつむく。
「やっぱり！　ミルカちゃんもそう思うよねぇ。今のクラス楽しいものねぇ……かわりたくないねぇ……」
　二人で何だかしょんぼりしてしまった。
　去年クラス替えをした時も、ずいぶん不安だった。
　今はみんなと仲良くなれたけど、マイペースなあさひは周りの人たちのペースについていけてないことがある。
　新しいクラスに慣れるまでの間は、やっぱり落ち着かなくて寂しい時間を過ごすことになるんじゃないだろうか。
「だめだめ、おちこんでくる気持ちをふきとばさなきゃ！」
　あさひは顔を上げる。
「クラスがかわっても学校がかわるわけじゃないものね。クラスがかわっても、なかよしでいてね！」
　ミルカの手をぎゅっとにぎって、お願いするあさひ。
「あさひちゃん……はい、もちろん、クラスがかわってもずっと仲良しでいてくださいね！」
　手を握り返して、ミルカはにっこりと微笑んだ。
　しっかり者のミルカだけどまだまだ子供、不安がないわけじゃない。
　でも自分が落ち込んだ顔を見せたら、あさひちゃんも不安になってしまうだろう。
　なら、やっぱり笑っていなくちゃ。

　そんな友情の再確認をしているところへ、先生が通りかかった。
「クラス替え？　あら、クラス替えがあるのは3年と5年になる時だけよ」
「えっ？　それじゃあ……」
「えーっ、そうだったんですね！」
　二人はほぼ同時に口を開いた。
「じゃあ4年生になっても同じクラスですね！」
　嬉しくて、思わずミルカはあさひにハグをした。
「うん！　なあんだ、心配しちゃったよ……よかったねえ」
　あさひもすごくほっとして、ミルカに抱きついた。
　が。
「今年はどうなるかわからないけどねー」
　先生は一言、そう付け足したのだった。
　

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