しゃべりばあいてむ！｜リアクション

しゃべりばあいてむ！

■八神修と幸せのマフラー
　本人がいないところでこういうことを語るのもどうかと思うが、八神修は七夜あおいが大好きである。
　知らない人のために解説すると、ののこの同室の子である。
　それこそ本人のいない場所なので詳しく語るのはよすとして、今回は彼女から貰ったというマフラーについてお話したい。

　修の自宅に大事にしまわれている黄色いマフラー。
　以前クリスマスプレゼントに貰ったもので、なんか修のテンションがどこかへ飛んでいったかのような愛され方をしているアイテムである。
　なんか幸せとか感謝とかそういうパラメーターが自棄になったのかと思うくらいマックスに伸びていることから、テンションの高さを知ることが出来ようか。
　今回ほうぼうで起きた愛用品がしゃべり出すというフシギ現象は修のお家でも起きており、その対象がこのマフラーだった。
　それも、マフラーをブラッシングしている時のことである。
『いつもお手入れしてくれてありがとうっ！　でもなんで毎日使わないの？』
　とか、急に言い出した。
　変な話かも知れないが、八神修は言うほど驚いたり取り乱すことは無い。ああ今回はそういうフシギ現象がおきたのねという顔で、ごくごく普通に対応した。
「こちらこそ、暖かくしてくれてありがとう。毎日使わないのは、しっかり干して長く使いたいからかな」
『そっかあ』
　これで話が終われば、ブラッシングしてさあどんどんしまっちゃおうねで済むのだが、そうはならなかった。
　具体的には、質問が一個増えたのである。
『贈り主のこと、どう思う？』
「…………そ、それは」
　ブラシを宙にさまよわせ、修は柄にも無く慌てた。
「た、大切なクラスメイトだよ」
『バレバレだよ』
「にゃにがだよ」
　噛んだ。
　バレバレだった。
『いつも見てるからバレバレだよ』
「そ、そんなにか？」
『そんなにだよ』
　修はブラシを取り落とし、両手で顔を覆った。
　珍しいリアクションである。
　さすがマフラー。伊達に愛用されてはいない。
「一緒に居ると、温かい気持ちになる。幸せになれる人、だよ」
『そっかあ』
　最初と似たようなリアクションをされて、修ははたと我に返った。
　こいつ分かって聞いてるな、という顔である。
　咳払いをひとつ。
「ところで、してほしいことはあるかな」
『ううん、別に』
「そっかあ」
　あえて同じリアクションを返してみたが、思いの外恥ずかしいものだった。
　まあ、愛用されたマフラーがしてほしいことといっても、そうそうないものである。
　仮に修が全知全能の神かなにかでも、似たことを言ったかも知れない。
　しかし全知全能ならぬ人の身なればこそ、修にはやりたいことや知りたいことがあった。
　マフラーを手に取る。
「所で。君を選んでいる時のあおいの様子は……どうだったんだ？」
『えっと』
　暫く沈黙を挟んで、マフラーは言った。
『ヒミツ』

　愛用するというのは、いつも通りに扱うという意味でもある。
　日常にしっくりなじんだその行為は、やはり滞りなくすすむもの。
「冬にまた、頼むよ」
　修はそう言ってマフラーを箱にしまい、次にマフラーを巻く季節を想った。

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