しゃべりばあいてむ！｜リアクション

しゃべりばあいてむ！

■新田亮の英和辞典
『ヘイ！　ミーのリスニングレッスンを受ければこんな教材なんていらないぜ！？　カモン！　リピートアフターミー！　カモーン！』
　急に何が起こったんだと思うやも知れないので説明しておく。
　なんか英和辞典がしゃべり出したのだ。
　……いや、これ以上の説明を求められても困る。
　新田亮に至っては誰の説明もないまま急に喋りかけられたものだから、もう本当に反応に困っていた。
　と言うわけで。
「え、なんで……？」
　としか言えなかった。
『オイオイ頼むぜブラザー！　聞き返すのはあの、えーっと、あれだぜー！？　ＨＡＨＡＨＡ！』
　いや、こっちに解説を求めないで。
　小粋なアメリカンジョークを言おうとして思いつかずにノリだけで流した以上のことは分からないんだから。
　勿論誰にも解説を求められない亮に至っては閉口せざるをえず、なんか面倒くさい奴が出てきちゃったなあと内心で呟いた。
『いいかブラザー。男には男の英会話がある。わかるだろ？』
「全然わからない」
『そこでだ！　俺がクールでダンディなイングリッシュトークをレクチャーしてやるぜ！』
「会話をしてくれ」
『リピートアフターミー！』
「会話をしてくれ！」
　珍しく慌てる新田亮であった。

　ちゃんと解説しておかないと背景が想像しづらいと思うのでちょこちょこ加えていくがが、場所は自宅の自室。夕暮れも近い時刻のベッドサイドで雑誌をぱらぱらめくっていた際の出来事である。
　皆も経験あるよね。自宅で雑誌読んでたら棚に挟まった英和辞典に話しかけられた経験。
　そんな時も安心、このスピーディーなラーニングＣＤを聞き続ければあなたも楽々英会話マスターに――。
『ファー（ピー）！』
　英和辞典がＦ言葉を発した。
　日本国内でＦ言葉つってもピンと来ないかも知れないが、英語圏で喋ったらとっても汚いなって思われる単語のことである。意味とか知らなくていいんだ。こう、文化の違いにうわーってなるから。
　ちなみに映画の吹き替えや字幕では『クソッ！』とか『畜生！』て訳される単語である。使い方としては大体そのくらいで合ってる。
「やめろよ、俺の部屋でそんな叫び声をあげないでくれ」
『リピートアフターミー』
「やめろよ！」
『ファ（ピー）』
「言いたいだけだ！　言いたいだけだこいつ！　もっと他に無いのかよ、そんな英語教わっても役に立たないだろ！」
『えっと……ファ（ピー）ユー！』
「かわってない！」
『ええい、こうなれば力尽くでもファクらせてやる！』
「ファクらせるってなに」
『書け！　喋るのが嫌ならまず書け！』
「そのくらい、なら……」
　亮はノートに鉛筆でＦ・Ａ・Ｋ・Ｕと書き付けた。
『No』
「えっ」
『Miss spell』
　英和辞典は一文ずつ区切るように言った。
『Ｆ、Ｕ、Ｃ、Ｋ』
「ほう……」
　図らずも勉強になってしまった亮なのだった。

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