みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　新田亮は、寝子島神社でスイーツを堪能していた。

　甘い物には目がない亮。勿論屋台の物も例外ではない。亮は参道にずらりと並んだ屋台を回り、たくさんの甘い物を次から次に買い込み、味わっていた。
　そしてリンゴ飴を頬張りながらほくほく顔で歩いていた亮は、ふとある屋台に目を留め、立ち止まった。
「射的か……」
　コルク銃でお目当ての景品を当てる射的。亮は苦手ではない。
（こんなのは屋台か温泉でしか出来ないもんな。やってみるか）
　亮は射的屋に足を向けた。

　射的屋の親父に料金を払い、コルク玉を貰って銃に充填すると、亮はスチャリとそれを構えた。そしてパン！　と小気味いい音を立てながら軽快に景品を倒す。
（うん、調子がいいな）
　特にお目当ての物もないし、気軽なものだ。さて、次はもうちょっと奥の物を狙ってみるかと銃を構え直そうとした時、右下から熱い視線を感じて亮は思わずそちらを見た。
　そこには、小さな男の子が立っていた。くりくりの黒い瞳に、ちょっとボサボサの茶色い髪。可愛らしい男の子はほええと口をまん丸くして亮に言った。
「お兄ちゃん、上手だねぇ！」
　突然の賛辞に亮は面食らったが、「ありがとう」と素直に礼を言う。するとその男の子も銃を持っている事に気が付いた。
「君も射的をするのか？」
「うん！　お兄ちゃんほど上手には出来ないかもしれないけど、がんばるよ～」
「そうか。上手くいくといいな」
　男の子はにっこり笑うとおぼつかない手でよいしょと景品に向かって銃を構える。亮はそれを微笑ましく思いながら、自分もまた射的を始めた。

　亮はゆっくりと射的を楽しみ、自身の玉の半分程を消費した。ふうと、一息ついて何気なく先程の少年の方を見る。すると彼は銃を台の上に置いて悲しそうな顔をしていた。
「……どうした？」
　心配になった亮は少年に声をかける。少年はちょっと俯きながら答えた。
「欲しい物に当たらなかった……」
　聞けば全部撃っても当たらなかったという。亮は少し考えていたが、ポンと少年の肩を軽く叩き、言った。
「任せろ」

　亮は少年から欲しい景品を聞き、銃を構えた。自分の玉は、後４つ。
　―――１発目。玉の飛距離が足らずに失敗。
（これ以上体を前に出せないか。それなら……）
　―――２発目。亮は銃口の高さを上げて撃ってみた。すると弾丸は景品よりも高い場所に当たる。
（ふむ。それなら１発目と２発目の間を狙えば良いんだな）
　―――３発目。玉は景品のやや右側を通過する。
（……よし、最後だ！）
　―――４発目。亮は銃口をやや左にずらして発砲する。その玉は見事に少年のお目当ての景品に当たった。
　親父から景品を渡されると、亮はそれを少年に差し出した。
「ほら、プレゼントだ」
　少年が満面の笑みを見せた。

　何となく仲良くなった２人は、お互いに自己紹介をすると、そのまま神社のひなまつりを楽しむ事にした。
　参道を一緒に上がると、楼門の手前では雛あられが振る舞われていた。勿論甘い物を亮が逃すはずがない。少年―――二宮風太と雛あられを貰うと、ポリポリと食べながら境内を散策した。

（さくさくとした食感に程よい甘みのハーモニーが絶……）（※要約＝めっちゃ旨い！）
　亮の表情は変わる事はなかったが、彼は今、至福のひとときを過ごしていた。ポリポリポリポリと、あっという間に雛あられを食べ終わる。
（ああ、もう食べ尽くしてしまった）
　空になってしまった和紙の包みを、亮は名残惜しそうに眺める。そしてチラリと風太を見た。
　風太はのんびりと雛あられを口に運んでいる。亮は心の中で思っていた。
（もし彼が雛あられをくれると言ったら、遠慮なく頂こう）
　その熱い視線に気付いた風太。首を傾げて亮に言った。
「お兄ちゃん食べちゃったの？　僕のあげようか？」
「いいのか？　ありがとう」
　宣言通り遠慮無く貰う亮。甘い物に対しては何処までも意地汚い男であった。