みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

「お花が見えて、素敵な席ね。ご一緒してもいいかなぁ？」
「勿論だよ！　どうぞどうぞ」
　神社の片隅での知人との出会いに、望春は二つ返事で席を勧める。瑠奈は「ありがとう」と笑顔で向かいに座った。
「夢宮さんも屋台を見て来たの？」
　望春の問いに瑠奈はほわりと笑った。
「うん。いろんな屋台が出てて楽しいよね。普段食べられないものも、たまにはと思ってたーくさん食べちゃった」
「わかるわかる。俺も色々目移りしちゃった」
「それでね、ちょっと休憩しようかなぁと思ったら、綺麗な桃の花が目に入って、その下に望春さんがいたの」
　そう言って瑠奈は、自分の持っていた甘酒をこくりと飲んだ。
「こういうのんびりした時間もいいよね。ほうっとする幸せな時間」
　瑠奈は頭上の桃の花を見上げた。つられて望春も桃の花を見上げる。
「……うん。いいよね、ほっとする」
　２人はそれぞれの甘酒を飲み、ほうっと息を吐く。そして顔を見合わせ、穏やかに笑った。

　しばらく２人は和やかに談笑していたが、ふと瑠奈が何か気付いた顔になる。彼女は立ち上がると軽く手を挙げた。
「こんにちは、焔ちゃん！」
　瑠奈の視線の先には、真新しい靴で神社のお祭りを楽しんでいた神薙焔が立っていた。

＊＊＊＊＊＊＊

「わあ、今日は焔ちゃんの誕生日なの？　おめでとう」
　焔から話を聞き、瑠奈が心からのお祝いの言葉を述べる。少しだけ照れながら焔が自分の持っていた箱をテーブルの上に置いた。焔が箱を開けると、中からは小さなお内裏様とお雛様が載った可愛らしいケーキ。焔はキャットロードにある和菓子屋『萩屋』で、自慢のひなまつりケーキを買って来たのだ。
「わぁ、かわいいね」
「ほんとだ。いいね、このケーキ」
　瑠奈や望春が覗き込みながら口々に言う。焔はちょっと頬を掻きながら笑った。
「せっかくだから買ってみたんだ。神社でひなあられとか甘酒とかと一緒に食べようかと思ったんだけど……一緒にどう？」
「わ、いいの？　ありがとう！」
「誕生日とひなまつり、二重のお祝いだね。うん、おめでたい！　俺も少し屋台で買ってくるよ。みんなで食べよう」
　思いもかけず、桃の花に彩られながらミニパーティーが開かれる事となった。ひなあられや甘酒。瑠奈や望春が買って来た屋台の食べ物、焔の持って来たケーキ。そして、３人の笑顔。
（桃の花の下で食べるケーキも悪くない。女の子をお祝いする日に誕生日なんて、ちょっと素敵じゃない？）
　焔は甘いケーキを頬張り、嬉しそうに目を細める。彼女の誕生日はわいわいと楽しいものとなった。

　好きなサバイバルゲームの事を焔は熱く話し、それを望春は興味深く聞いている。そんな２人の姿を見ながら、瑠奈は思っていた。
　忙しく過ぎる日常で忘れがちなこと。ゆったりした気持ちで、いろんなものをみたい。
　普段の目では全く見えない世界を、みてみたい。
　だから私は１日１日を大事にするし、その瞬間を素敵だと思うし、切り取れるなら切り取りたいし。
　だけれど、切り取っちゃったらただの風景になっちゃうかしら……。
　瑠奈はくすりと笑う。でも、目の前で友人が談笑している様は、素敵な風景だと思った。
（この瞬間はたしかにここにあって、あたしはここにいる）
　だから、何がいいたいかって言うと。
　瑠奈はぱくりとケーキを頬張った。
　食べ物が美味しくて、飲み物が美味しい。っていうこと。
　まだまだこれからも、頑張ってこ。
　そして、そう思える世界は、とても素敵。

「楽しいね、望春さん、焔ちゃん」
　瑠奈は友人２人ににっこり微笑む。望春と焔は瑠奈を見て、大きく頷きながら笑った。

　美味しく、楽しい時間はあっという間に過ぎ、焔と瑠奈は笑顔で帰って行った。
　再び１人になった望春はまたふっと桃の花を見上げる。すると家にいるであろう姉３人の顔が浮かんだ。
（そういえば、神薙さんが桃の花の配布をしてるって言ってたな。姉さん達に見せたら喜ぶかな？　……あの人達は花より団子な気もするけど）
　望春はふふと笑みを浮かべる。姉達の姦しい声が聞こえた気がしたからだ。望春はベンチから腰を上げた。

　屋台で美味しい物があったら買っていこう。神薙さんのあのケーキも可愛かったよな。
　―――家に、帰ろう。そして姉さん達というお雛様をおもてなしする準備をしないと。

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