＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――｜リアクション

＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――

結：解かれるモノ、現れるモノ

　椿美咲紀の炎により、雪が解かされる。恵御納久隆が周囲に結界を張り雪を防ぐ。春賀幽と牛瀬巧がライメイを守りながらも警戒を怠らず中を覗きこむと……、石畳の上に石版が１つ刺さっていた。
「これが、封印？」
　幽の問いかけに、ライメイが頷く。彼は徐に石版を触ると、静かに目を閉ざした。そして、天を向く。

　――アオーンッ！

　遠吠えを１つすると、ドコからとも無くまぶしい光が降り注ぐ。咄嗟に幽はバングルと槍の穂先を向け、光を集めた。それに習い、久隆と美咲紀、巧もバングルをかざす。
　すると、光が祠中を満たし、音を立てて石版が崩れる。光は祠からあふれ出し、やがて、周囲へと広がった。

「祠が、光ってる……！」
　刹弦救出後、周囲を警戒していた日暮ねむるが、祠の様子に気づき叫ぶ。と、辺りが輝き、次々に町並みが復活していく。
「綺麗だな」
「ええ」
　ルーク・ポーラスターと仙藤紫はその様子に目を輝かせ、他の者たちも『嵐の国』の封印が解かれた事を心から喜んでいた。
　ただ１人、影の貴人である帳を除いて。

　＊　　＊　　＊

　――少し時間を撒き戻して……。

　白虹は、かつて荒神によって滅ぼされかけたこの世界を救った白虎族の英雄です。
　彼が生きていた時代、愛憐様はまだ普通の青龍族で、彼とは恋仲であった、と聞いています。それはもう、大変仲睦まじかった、と。
　けれども、全てが終わって……。白虹は、別の少女と婚姻を結び、愛憐様を裏切ったのです。

　帳が語った話を聞いた一堂は、表情を険しくしていた。彼女から齎された言葉に、志波武道がずれた眼鏡を正す。
「白虹が、愛憐と恋仲だったというのも驚きだけど……」
「婚姻の約束を破ったというのも……」
　呉井陽太は帳から聞いた話を振り返り、深いため息をつく。だが、帳は静かにため息をついた。
「愛憐様からは一部しか聞いていないし、何より私もまだ普通の玄武族だった頃に聞いた話も混じっているからどこまで本当かはわからないけれど」
「それで、全てか？」
　御剣刀の問いかけに、帳は肩を竦める。
「私が言える分だけ吐きました。貴方が、貴方がたが止まれないように私も止まれない。今回も負けてしまいましたが、次こそは、その進路を心ごと断ちましょう」
　帳の言葉に、刀はすらり、と獲物を彼女へと向けて叫ぶ。
「男への怨みなのか、それを救ってくれた愛憐への忠誠なのか。なんにしろ、他人の言葉でどうこうされる想いじゃないだろう？　お互いの自己が譲れないなら押しのけて貫くしかないよな！」

　――阻めるなら阻んでみろ。
　　　俺はそれを置いて先に行く。
　　　全てを切り開いてこの手でつかむ……！

「『嵐の国』は俺達が開放する！」
　刀の叫びに、帳は表情を険しくする。いつのまにか吹雪はやみ、彼の言葉が放たれた途端、周囲が輝いた。いつのまにか姿を現した町並みに、帳は肩を竦めた。
「私は、どうやら足止めを喰らっていたようですね。迂闊でした。刹弦をそう簡単に開放できないと思っていましたから」
　その言葉に刀が表情を険しくするも、陽太が止める。武道はどこか悲しげな眼差しで帳を見、帳もまた同じような顔で口を開いた。
「……貴方がたは、絶望した魂を救えるのかしら？」
　それだけ言うと、帳は何も無かったかのように消えてしまった。