【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞

●桜花寮のひとびと・その１

　学年末の期末テストを前にして、とくに勉強に励んでいたのが桜花寮の人々であった。
　推測するに、星ヶ丘寮の人々は天才肌の人が多く、あくせく徹夜して勉強するようなことはしないのではないか。猫鳴館の人々は、勉強以外の自分の道を日々邁進しているのではないか（その上で一夜漬けして爆死という者も多いのではないか）と思わずにはいられない。勿論そうでない者も多いだろうが、俯瞰してみれば桜花寮生が三つの寮の中ではもっとも、『高校生らしい』テスト前の光景に浸っていると言えるだろう。
　ここからはそんな桜花寮の人々の姿を追ってみることにする。

　高峰一馬と血陣遵は、やや肩を落としながら図書館から出てきた。ふたりは桜花寮生であり、ルームメイトでもある。いよいよテスト直前だしきっちり勉強しないと……と、気分転換もかねてやってきた図書館であったが、同じように考える寝子高生で溢れており、二人は席を見つけることができなかった。
「まさか席がないとはなあ」
「ご、ごめん……」
「なに、血陣のせいじゃねえって」
　一馬は屈託なく笑って遵の背中を軽く叩くが、遵の方は浮かない顔だ。それというのも。
（もしかして僕の不幸体質のせいで席が見つからなかったんじゃ……）
　そんな懸念が首をもたげていたからである。
　どういうわけか、遵は運がない。よく転んだり、ケガをしたり、出かけようと思えば雨が降り、勉強しようと思えば席はなく……まるで貧乏神に取りつかれているのではないかと思わずにはいられない人生を送ってきている。だから今回も……と思ってしまうのだが、一馬はそんな遵の思考を察し、先回りして一蹴する。
「誰だって考えることは同じだろうって予想できなかった俺も悪いんだって。ま、どこでやったって、勉強は質が大事だろ。別の場所を当たってみるかー」
「う、うん……」
　イヤな予感はしつつも、このまま寮に帰ったら出てきた意味がないな、なんて思いながら遵は一馬のあとをついゆく。趣味はボルダリングと筋トレという男らしい背中の一馬は、意気揚々と歩いてゆき、図書館からすこし行ったところにある喫茶店を指さした。
「あそこで勉強しようぜ」
　ところが。

　ガンガンガンガンごごごごごごギュイイイイーーーン！！

「いやあ、すみませんねお客さん。昨日から隣で工事が始まったみたいで」
　申し訳なさそうに水を出してくれるマスターの手前、珈琲を一杯頼んではみたものの。
「とてもじゃないが質のいい勉強、どころじゃねえな！」
「う、うん……ごめん」
「だから、血陣のせいじゃねえって」
　こそこそと話しながら鞄からノートを取り出すこともせず、来た珈琲に口をつける。
「しょうがねえ、一杯飲んだらまた別の場所探そうぜ」

　ところが次に行こうとした店は休み。友だちの家はどうかと思ったら留守。そんな調子でどこに行っても落ち着いて勉強することができず、徐々に足取りも重くなってきた。
「どうする？　仕方ないから寮に戻るか？」
　返事がない。一馬は振り返る。すると、一歩後ろからついてきていると思っていた遵の姿がない。
「……しまった、血陣を見失ったか……。ちゃんとしっかり見ておくんだったなぁ」
　辺りを見回してみても、彼の赤い髪と赤い瞳はどこにも見当たらなかった。
「さっきの人込みの中ではぐれたか？」
　そう思ってスマホで連絡を取ろうとコールするが、出たのは機械的な女性の声である。
『お掛けになった番号は、電源が入っていないか電波が届かないところに……』
「ったく、ちゃんと充電しとけっての！」
　不幸体質なルームメイトはいったいどこに行ってしまったのか。
　一馬は遵のことを探しながら、今来た道を戻りはじめた。