悩みを解いてしんぜよ～！｜リアクション

悩みを解いてしんぜよ～！

■嘉島和穂の場合
　バレンタインデーが過ぎてから半月とちょっと。
　自室のカレンダーの赤いバツ印が三月の一日から順番に並び。
　恋の戦士こと嘉島和穂に課せられた次なる試練。
　ホワイトデー。
「ど、どうしよう……」

　遡るともうどこが始まりなんだかわかんなくなっちゃうが、かの先輩に思いを寄せてから暫くのこと、バレンタインデーのチョコが勝手に現われて飛んでいく事件をきっかけ（？）に制作した手作りチョコレートは無事に渡すことができた。
　しかしあの穏やかな対応を見る限りは……。
「意識されて、ない……よね」
　カレンダーを前にして、和穂はがっくりと膝をついた。
　命短し恋せよ乙女。
　されど重きは心の枷よ。
　このまま気持ちを重くしたまま過ごしてもしょうがない。
　振り向いてくれるのをドキドキしながら待つのもよろしくない。
　せめて自信くらいは持っておかねばならないのだが……。
「自信かあ。どうなんだろ。私に魅力とか……うーん」
　化粧台に置いた鏡を覗いてみるが、いるのは難しい顔をした女子大生である。
　あれだけ彼氏欲しい彼氏欲しいと言いながらキラキラした目で女性誌を開いていた自分とは思えない顔つきだった。
　ため息が漏れてくる。
「こんなんじゃだめだよね。自信をつけなきゃって思うけど」
　手首を見ると、ストーンブレスレットがはまっている。
　ガーネットとカルセドニーの玉が数珠つなぎになったものだ。
　占い師さんに作って貰ったものだが、割とストーンマーケットとかで売ってる品である。要するにこれを身につけて自信をつけなさいなという話なのだが……。
「でもやっぱり、自信ないよ」
　腕から外してみる。聞いた話じゃあ、パワーストーンもつけっぱなしだと効果が薄れるそうだ。なんだっけ。水晶の欠片とかに沈めておけばいいんだっけ？
　と、部屋の中をぐるりと見回したところで、ある置物に目がとまった。
　お三夜さまがサンマさんをくわえた置物である。
　このある意味身体を張ったギャグみたいな置物は、なんでも優しい気持ちで悩みを解決してくれるらしいが……。
「とりあえず、預かって置いてもらお」
　ブレスレットを、お三夜さまへ首輪のように巻いておく。
　ついでに手を合わせてお祈りしてみた。
「ご加護がありますように」

　それから暫くたってのこと。
　ブレスレットのこともとんと忘れてシーサイドタウンでショッピングに興じていたところで、ふと目にとまったものがあった。
　カップルである。
　この町じゃあカップルなんて珍しくないが、どうやら男性側は意識していないらしい。
　女性側が『ならばよし』とばかりにグイグイとアピールして、相手のエリアに踏み込んでいた。
　きっとこれが当たり前になれば、恋愛だって成就するだろう。それまでつらい気持ちが続くかもしれないが……。
　心の中で『頑張れっ』と思ってしまう光景である。
「カップル、かあ」
　世間の女性誌には色んなことが書かれている。彼氏を作る最短ルートやら、モテモテになるファッションやら、こんな仕草に男はメロメロだとか。
　けれど人類史上ずっと、恋の実らせ方はたった一つしか無いのではなかろうか。
　踏み込んで、踏み込んで、大好きで居続けること以外にないのでは？

　家に帰ると、パワーストーンをはめたお三夜さまがこちらを見た……気がした。
　ブレスレットは、心なしか輝きが増しているようにも思える。
　腕に嵌めると、なんだか心がぽっと温かくなった。
「私も、頑張ろうかな」
　ホワイトデーは、もうすぐだ。

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