悩みを解いてしんぜよ～！｜リアクション

悩みを解いてしんぜよ～！

■黒兎都の場合
　ネコというのは不思議な生き物である。
　それぞれに全く異なる好き嫌いがあって、しかし一様に可愛らしくそして常にワガママだが……そのくせ人の気持ちを知りつつ勝手に振る舞っている様子がある。
　まるで心の中を見透かしているような、不思議な生き物なのだ。
「けど、それならうちの気持ちを察してくれてもいいのでわ？」
　自宅に正座しつつ、黒兎都はぼやいた。
　視線の先にはネコの置物。
　お三夜さまがサンマさんを咥えているという、木彫りの熊みたいなやつである。
　そういやあれ最近見ないな。大体テレビの上に置いてあったけど、薄型世代になったらどう対応するんだろう。
　……とか思考を脱線させつつ、ぼやきを続けてみる。
「なんでこう、うちってあんなにもヌコに逃げられるのかのー」
　ヌコ。もといネコは可愛い生き物である。全人類が知っている。
　しかし誰でもウェルカムかといえば、残念ながらそうではない。
　ブロック塀の上を歩く野良猫も、道のど真ん中を横切る野良猫も、ひとの家で遭遇するネコも、みんながみんな都を避けていく。
「優しげなスマイル？　みたいなもんを投げかけてるつもりだし、なんなら煮干しやかつぶしだって用意してるのに。一体なぜだ……何が悪いのか……」
　ゆっくりと頭を下げ、こてんと額をクッションにうめる都。
　肩から力の抜けた土下座みたいな姿勢になって、都は呻いた。
「ヌコに逃げられないようになりたひ……」
　しかしなんで自分は置物なんかに悩みを打ち明けているのだろう。
　言葉にすれば楽になれるかと思ったけどむしろなんか気分が沈んできた。
「ヌコもふもふしたい」
　かくして都はまどろみに沈み、ゆっくりと（そのまんまの姿勢で）眠りに落ちた。

「はい、とうわけでね。本日のゲストは黒兎都さんでございます。まあーウサギさんでらっしゃるのー」
「はうあっ！？」
　ソファーの上で（さっきの姿勢で）目覚めた都は、突如始まった謎の番組に戸惑っていた。
　どっかで聞いたテーマと共に、空中に『サン子の部屋』というテロップが浮かんでいる。
　サンマさんっぽい生物がなんかとぐろを巻いたようなカツラを被ってはす向かいのソファーに座っている。でもカツラの位置が真上なせいで完全に顔を覆っているのだがあれいいのかな。謎の物体に顔から突っ込んだみたいになってるけどいいのかな。
「えー都さんはネコさんをもふりたいということで」
「はあ、まあよくヌコを見かけ――」
「まーそれはすばらしい。ちょっとやってみて頂けます？」
　この人、話聞いてない。
　都はしょうがないのでネコに見立てたお着物を前に、両手をあげて無害アピールをしつつ近づいてみた。
「あー、あるわー。それあるあるだわー」
　手を叩いて口を挟むサンマもといサン子さん。
　いちいち口調がブレるけどこいつ誰なんだろう。
「ネコっていうのは自分より上の位置にあるものを警戒するから、手を上げると威嚇になるんですよ。あと野生のネコは特に目を合わせたり歯を見せたりする相手を警戒するから、視線を地面に向けて、手のひらを相手の目線より下に翳してじーっと待つのがいいですねえ」
「アドバイスが具体的で的確なのがむかつくのー」
「はいというわけでゲストの黒兎都さんでした。また来週！」

　さっきの姿勢で。
「はっ、夢か！」

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