春風のいたずら｜リアクション

春風のいたずら

○飛んで飛んで

「いい天気だな……」
　自宅で勉強をしていた八神修は、目を休めるため窓の外を眺めた。
　と、何かが空を飛んで行ったのを目撃した。
　明らかに鳥や飛行機ではない。
「何かというか誰か、かな」
　ろっこんで飛べるもれいびはいるだろうが、飛んでいた人はどう見てもパニックしている風で、慣れている様子ではなかった。
「また神魂の異常だろうか」
　修は春物コートを羽織って庭に出た。
「暖かいと言っても油断は禁物だ」
　そこへ、突風が襲った。
（春一番かな）
　思うより先に体がふわりと浮き上がる。
「何？」
　一瞬焦るが、修は深呼吸一発で事態を把握した。
　さっき飛んでいた人もこういう事情だったのだろう。
　風に乗り、どんどん高度が上がっていく。
（突然効果が切れて地上に墜落したら死んでしまうわけだが）
　シビアに怖い考えにも至りつつ、パニックしてもますますリスクは高まるだけだ、とも考える。
（さて、どうしたものか）
　と暫し漂い寝子島を遊覧する。
（自分の意思で飛べたら彼方此方を眺めに飛んで行けるんだが）
　ふと気づく。
（自力飛行が無理でも、コートを帆のように広げれば）
　ばさり。
　試しにやってみると、風を受け、うまく方向を変えることができた。
（空中帆船のようだな）　
　やがて、空に無数の黒点が見えた。
　どんどんこちらに近づき、修はその正体を知った。
　鳥の群れだ。
　彼らはたちまち修を取り囲んだ。
「ははは、俺は仲間じゃないよ」
　何かあげられるものは、とポケットを探ると、またたびメイトが１本出てきた。
「細かく砕いて……これはろっこんを使うまでもないな」　
　鳥に与えると、益々群らがられてしまった。
「渡り鳥だな……どこから来たんだ？」
　種類を見定めて尋ねる修だが、もちろん返事はない。
「鳥の言葉が分かればよいのにな」
　そんなことをつぶやいていると、眼下に飛んでいる人影が見えた。
　手にパペットをはめているようだ。
「あれは……恵御納か」
　急いでいる様子に、進行方向を見れば、リボンをつけたもう一人の少女が樹にひっかかっている。
「浅山か？　おーい、大丈夫か？！」
　助けに行こうと、修は鳥の群れから抜け出そうとした。
　しかしその時、再び強風が吹いて……！
　修は逆方向に吹き飛ばされていった。

「恵御納がいれば大丈夫だと思うが……」
　ようやく体勢を立て直した修は、大分下のほうへ降りてきていた。
　下を歩く筋肉隆々の人物に見覚えがある。
（フジコ先生？）
　富士山権蔵先生だった。
（気付かれないよう通り過ぎよう）
　別に先生に会いたくないわけではないが、フジコ先生は『ひと』である。
（生徒思いの先生を驚かせたくないからな）
　だがその時、修は突然先生へ向かって落下し始めた……！
（まずい、効果が切れたか）
　上を見上げた先生と修の目と目が合った。
　次の瞬間、修はフジコ先生のたくましい腕の中、姫抱っこされていた。
「……こんにちは、フジコ先生」
　どんな時もクールに、普通に挨拶する。修は通常営業であった。
（鳥と飛んでたとは言えないしどう説明するか……まずは受け止めてくれたお礼を、それから……）
「ありがとうございます、助かりました」　
　フジコ先生もまったく動じる気配がなかった。
「どういたしまして♪　今日空から人が落ちてくるのはこれで二人目よ」
「えっ？　そうでしたか……風が強いですからね」
　言い訳を考える必要もなさそうな気がした。
　……それよりも。
「あの、大丈夫ですので下ろしていただけますか」
「あら、アタシはこのままでも別にいいけど？」
「いえ、そういうわけにも……」
　ほっとしつつ、周囲の好奇の目が気になりだす修であった。
　
　

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あとがき

担当マスター：天村花海
ファンレターはマスターページから！

ご参加ありがとうございました。
少し早めの春一番、恥じらいより空中での冒険等に力が入ってしまったような気もしますが（＾＾；
皆様ケガもなくご無事で何よりでした。トラウマになってしまった方はご愁傷様です……

真面目な話、強風はむしろガラスが割れたり物が当たったりのほうが怖い気もします。
下着も、見られてもいい綺麗なものを身に着けてないと別な意味で恥ずかしかったり……；
皆様、どうか強風の際は気をつけてくださいね。

それではまたのご参加をお待ちしております。

　

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