春風のいたずら｜リアクション

春風のいたずら

○文房具を買いに

（すっかり暖かくなって春の陽気ですね……）
　寝子高１年の浅山小淋は、スカートを履いて外へお出かけしていた。
　幼い頃の高熱が原因で声を発することができない小淋にとって、スケッチブックや筆記用具は声代わりだ。
　新しいものを買い出しに行くのは大事な用事であるが、それはそれとして気持ちが浮き立っていた。
　後頭部に結んだトレードマークのリボンも、春を意識したものを選んだりして。
（天気もよくとても過ごしやすい日ですね）
　もうそろそろ２月も終わり。来月には３年の先輩たちも卒業してしまう。
（早いものですね……）
　梅の花を眺めたりしながら、少ししみじみとした気持ちで島内を巡っていると。
　突然いたずらな風が吹いてきて、小淋のスカートを捲り上げた……！
（……！）
　悲鳴を上げようにも、小淋は声を出せない。
　慌てて押さえ、風が収まって一息ついたが、しばらくしてハッと気がついた。
（誰かに下着を見られたりしなかったでしょうか……）
　辺りを見わたし、反応を伺う。
（良かった、誰も……！？）
　視線の先に、赤くなっている中学生くらいの男子がいた。
　男の子がぽつりと言う。
「……白」
（見られた！）
　小淋の頬が一気に赤くなる。
　今日の下着は小さなリボンのついた白いショーツだった。
　小淋は恥ずかしさに乱れた髪もそのままに、その場を逃げ出した。

　寝子中３年の水上桜は、シーサイドタウンを駅ビルのmiaoへ向かって歩いていた。
（あと少しで中学生活も終わりかあ）
　胃がキリキリ痛むような受験期間が長かったので、合格するまではまるで実感がなかったけれども。
　寝子高の制服一式をそろえたりと色々と大変ではあるけれど、大きな山を越え、ここ最近は本当にのんびりと過ごしている。
　今日は外もだいぶ暖かくなってきたし、何より天気もいいので適当に町中をぶらついていた。
（少し気が早いけど、高校で使う筆記用具類とか買いに行こうかな）
　心機一転で新しいものを買いそろえるのも悪くないし。それに、他にもいろいろと欲しいものがあるけど……迷っちゃう。
　ふと、周りの少し年上に見える女の子や男の子を眺めながら、（もしかして寝子高で先輩になる人だったりして？）なんて思ったり。
　今まで同じ風景を見ていてもそんなふうに感じたことはなかったのに、不思議な感覚だ。
　……と、そこへ猛烈な風が吹き込んできた。
「きゃっ！」
　押さえる間もなくスカートがめくれて、慌てて隠したものの……
（見られちゃった？）
　周りを見ながら、桜は頬が熱くなるのを感じた。
（見られちゃったよね！？　私の……下着が！）
　今日はいているのは、薄いピンクの可愛らしいタイプのものだった。
　男子たちがこっちを見たり、不自然に目を逸らしたりしているような……
「もう信じられない！　なんで今日に限ってこんなに強い風が吹いてんのよ！」
　パニックになる桜だが、次の瞬間、さらに強い風が吹いた。
「きゃあっ！」
　必死に電柱にしがみついて、目をつぶってスカートを押さえた桜だけれど。
　目を開けたとき、信じられないものを見た。
（人が……飛んでる？！）

　文房具店で目的のものを買い終え、店を出た小淋の近くにはあいにくつかまるものはなかった。
（また風が……！）
　今度はしっかりスカートを押さえたが。
（……！？）
　風は、スカートどころか身体ごと巻き上げた！
　スリムな小淋の身体は、荷物ごと風で浮き上がってそのまま宙高く浮かび、流されていく！
（ど、どうなってしまうのでしょう……！？）

「どうしよう、あの人落っこちたら……」
　桜は飛ばされていくリボンの少女を見過ごせなかった。
　かなり高度があったし、地面に落ちたら相当なケガを負ってしまうかもしれない。
　助ける方法を思いつかないまま、桜は少女を追いかけて行った。

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