春風のいたずら｜リアクション

春風のいたずら

○見た側の心理

　春らしい気候に散歩に出たくなるのは、むろん女子だけではない。
　小柄な童顔の青年新田亮も、街をぶらついていた。
　薄着で出かけてしまって寒さに凍えてしまい、トレーニングがてら走ろうか、などと思いながら前方を歩く少女のひらひらとしたスカートを見るともなしに眺めていると、急に突風が吹いた。
「……！」
　前を歩く少女のスカートがめくれ、黄色い花柄パンツが目に映る。
　その鮮やかな色彩は春の訪れを感じさせ、凍えた亮の体をわずかに温めた。
（ああ、春って素敵だな）
　と思った亮だが。
　少女が振り返ろうとしたので、急いで首を90度回した。
「君、見たでしょ」
　少女のほうでは心温まりはしなかったようで、厳しい表情で亮を問い詰めてきた。
（見た、とは言えないよな。何か言い訳……）
　困った亮は迫る少女から視線を逸らしながら頭を巡らせる。
（あれだ！）
　亮の視線は、映画館の前のポスターを捉えた。
「え？　ああ、本編はまだ見てないんだ。気にはなってるけど」
　そう言って亮は映画ポスターを指さす。
　ポスターと亮の顔を交互に見て、少女は数秒考え込んだ。
　果たしてごまかされてくれるだろうか。
　ハラハラしながら見ていると、少女はおだやかに口を開いた。
「……そうなの。面白い作品だから結構オススメよ」
（よし、上手く話題を逸らせた！）
「それなら今度見に行こうかな」
「うふふ、きっと貴方も気に入るわ」　
（我ながらうまくごまかせたな）
　と思った亮だが。
　少女は思い出したかのように手を叩く。
「あ、そうそう私聞きたいことがあったの！」
「何だ？」
　もう大丈夫かと警戒を忘れて答える亮に。
　少女は、にっこりと笑顔を見せながら聞いてきた。
「黄色い花柄の奴見なかった？」
「え？」
　思わず固まる。
（この女、俺がパンツ見たかどうか探ってきた！）
　しかも一端亮の気持ちを安心させてからの不意打ちである。
（……策士だ）
「どうしたの？　黙っちゃって」
「ああ、いや君が何を聞きたいのか分らなくて、考え込んでしまった」
　こうなればしらばっくれるしかない。
「あら、ごめんなさい。うっかり肝心な部分が抜けてたわ」
（嘘つけワザとだろ！）
　よく見ればかわいい子で、話しているのは決して悪い気はしないのだが……
　気の抜けない心理戦に、無駄に疲れてしまう亮だった。

　

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