春風のいたずら｜リアクション

春風のいたずら

○先生、見えました？

「今日はいいお天気なので季節先取りです」
　宮祀智瑜は、旧市街の八百屋の実家で、可愛いミニスカートでくるっと回って。
「今日も良い日になりそうです！」
　無意識に鼻歌を歌いながら出かけた。
　時々スキップもしてしまう。
　そんな春めいた気持ちでいたけれど。
　突然の風でスカートがひらり、とめくれ上がった。
「きゃっ！」
　慌ててスカートを押さえてピンクの紐パンを隠し、あたりをきょろきょろ見回す。
「誰もいない……あっ！」
　そこに、桐島義弘先生がいた。
　大好きな義弘先生と偶然会えたらいいな……と智瑜はいつも空想してしまうのだけど。
　嬉しいけど……よりによってこんな時に？
（でももしかして、見られてない？）　
　先生はこちらを見ていないように見えるが。
「こんにちは、義弘先生」
　表情の変化を見逃すまいと先生をじっと見つめながら、智瑜は声をかけた。
「やあ、宮祀、すごい風だったな。砂が入りそうで目を瞑ってしまった」
　先生は表情を変えずに、スムーズにそう言ったが。
（なにか……不自然です）
　うまく言えないけれど、なんとなくそう感じる。
　単刀直入に智瑜は尋ねた。
「先生、見えました？」
　自分で言いながらも照れてしまうけれど。
「な、何をだ？　目を瞑ったと言ったろう」
　明らかに義弘先生は動揺していた。
「この前買ったばかりなんですよ。ちょっと透けてるところもあって色っぽくって可愛いんです」
「な、何？　しかし学生にはそういうのは……恥ずかしくないのか、宮祀」
　白い義弘先生の頬に少し朱が差した気がする。
　だんだん智瑜の中に、恥ずかしさとは違う感情が生まれていた。
「先生なら恥ずかしいけど見られてもいいかなって……。だって先生の破れたズボンを縫うときに私も見てるし。苺柄とか可愛かったです♪」
　先生の反応を楽しむ気持ち。それは、決して意地悪な気持ちではなく……
「な、何を言ってるんだ。それにしても、ミニスカートは気をつけたほうがいいぞ」
「ミニスカートはお洒落だし可愛いから穿いちゃうんです」
　くるりと回ってみせて、義弘先生を見上げる。
「似合ってますか？」
「……」
　義弘先生は言葉に詰まったようだ。
　何か言おうと口を開きかけた時、またもや強風が吹いた！
「きゃあ」
　スカートだけでなく自分まで飛ばされそうになって、智瑜は先生にぎゅっとしがみついた。
「大丈夫か、宮祀……」
　そう言った先生から離れてしまわないよう、智瑜はしっかりと先生の手を握る。
（体格も良いし頼りになるし。もしもの時は一緒に飛んでもいいかな……）
　それも楽しそうかも、と思いながら、智瑜は先生の温もりを感じていた。

「もう大丈夫だ」
　先生が足を踏ん張って智瑜をしっかり支えてくれた時。
　ビリッ。
　おなじみの音が響いたのを、智瑜は聞き逃さなかった。
　そして先生を見上げ、にっこり微笑んだ。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」
　バッグからソーイングセットを取り出しながら。
　

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